一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

冒頭陳述 (模擬裁判体験記7)

2007-11-27 | 裁判員制度
検察官の冒頭陳述が始まります。

やおらノートパソコンを開いて、スクリーンにパワーポイントで作った資料が写しだされます。
あわせて、裁判官・裁判員にスライドをプリントアウトしたものが配られます。

内容は①当日起きた事実関係②法律上の争点の2つに関する検察側の主張です。

困ったのが、パワ-ポイントのスライドを映写しながら検察官が説明する一方で、手元には3スライド/1枚にプリントアウトされた資料があるので、スクリーンに集中すればいいのか、説明に集中すればいいのか、詳細にメモを取った方がいいのかがわからなかったことです。
パワーポイントでのプレゼンテーションでは、説明に集中してもらうためにスライドだけで説明を行い、あとで資料を配るという方法をよくとります。そうしないと資料だけをパパッと見て早合点されたり注意が散漫になったりするからです。

それに、資料が目の前にあるとかえって検察官の話す内容とのギャップが気になり、スライドに書かれていないことをひとことも聞き漏らすまいとしてしまいます。
特に、冒頭陳述の全体像がわからないのでペース配分がつかめず、何メートル走かもわからないレースを最初から全力疾走するので、必要以上の集中力を使ってしまった感じがあります。

この点で私にとって象徴的だったのは「志村さんの自転車問題」です。
当日の出来事として被害者の志村さんがコンビニに行って被告人と会ったという場面で、検察官は「・・・志村さんは寮を出て自転車で公園に向かい、その足でコンビニに行きました」と説明し、わたしはご丁寧にも
 <寮-(自転車)→公園→コンビニ>
とメモしました。

しかし志村さんが自転車に乗っていたことと公園に立ち寄ったことは、その後検察側からも弁護側からも二度と話題にものぼりませんでした。

冒頭陳述では何をどういう順番で説明するかを最初に説明してもらい、さらにあまり関係のない細かいことは言わないほうがわかりやすいと思いました。
それから、検察官や弁護士がパワーポイントの技術ばかり磨いてもどうかとは思うのですが、図で紫色に塗りつぶした楕円に黒い文字を入れるのはスライドでも見にくく、白黒コピーでは判読不能だったので若干の工夫は必要かと思います。


それで、肝心の内容
<事実関係>
①被告人(木村)と被害者(志村)は同じ寮で数年来廃品回収業に従事し、従来は仲良く酒を飲む間柄だったが、ここ数ヶ月志村は被告人と酒を飲まなくなった。また。最近稼ぎが悪いせいかと被告人(稼ぎはよかった)が酒を差し入れても志村は礼も言わなかった。これは後に事件の目撃者になる同じ寮に住む加東が証言している。
②事件当日被告人は16時過ぎに酒屋で飲酒し、一旦寮に戻ったあと加東に豆腐の差し入れなどをしてからコンビニに行き酒を買って駐車場で飲んでいたところ、同じ駐車場で志村が自分以外の人間と仲良く酒を飲んでいるのを見て話しかけたが無視されたので腹をたてた。
③志村が寮に戻っていると、しばらくして被告人が帰宅し、志村に向かって「話がある、外に出ろ」といい、一旦部屋に戻って包丁をタオルに巻いてズボンにつっこみ外に出た。
④志村は加東の部屋に行き「被告人に呼び出された。喧嘩したくないのでなにかあったら止めてくれ」と言って一旦部屋に戻り、自らも包丁をタオルに巻いてズボンに隠し持って後を追った。
⑤高架下にいる被告人を見つけ志村が「何の用だ」と言うと、被告人はおもむろに包丁を取り出し志村の左胸を刺した。
⑥志村は被告人の手を押さえると「加東さん、助けてくれ」と叫んだが、被告人は手をふりほどき、更に志村の右胸を刺した。
⑦加東が駆けつけると、志村は胸から血を流し、被告人は包丁を持っており加東に向かって「止めないでくれ、志村を殺す。俺はどうなってもかまわない」と言った。
⑧加東は「だめだ、包丁をよこせ」と被告人に言い、包丁から指を引きはがして取り上げると、志村を助けようとした。そのとき志村も左手に包丁をタオルにくるんだまま持っていることに気がついた。
⑨志村は救急搬送されたが当初呼吸反応がなく、出血多量で死亡する恐れもあったが命はとりとめ、加療3週間を要した。

<争点>
①殺意があったこと
刃渡り17cmの鋭利な包丁で胸部を2度突き刺した。
しかも「志村を殺す」などと発言している。
2つの傷は胸腔にはたっしていなかったものの深く、2度目の傷は動脈に達しており死亡の危険があった。
志村に不満を抱いており動機がある。
②責任能力はあること
被告人の飲酒量は普段と変わらなかった。
犯行後約40分の時点での警察官によるアルコール呼気検査では0.45mlと高くなく、正常歩行が可能だった。
包丁を隠し持つ等計画的。
犯行前後の記憶はある。


***********


次は弁護側の冒頭陳述です。

こちらはパワーポイントは使わずに口頭説明。
ところが手元に「冒頭陳述書」と「冒頭陳述要旨」という2つの資料が配られたところから混乱が始まりました。

「要旨」の方は主張の大項目とその概要が1行程度書かれていて行間がメモ書きスペース風にあいているレジュメです。
おそらく弁護側の算段では「要旨」の項目を見ながら話を聞くことで裁判員の集中度と理解度を上げようということだと思います。
しかしそれなら「冒頭陳述書」は後で配ったほうがいいと思います。

私も最初は「要旨」の余白にメモを取りながら聞いていたのですが、「冒頭陳述書」に内容が全部書いてあると気づいてからは、それを読みながら話を聞いていました。
しかも弁護人は「冒頭陳述書」の表現に言い換えや補足を早口で少し付け足すものですから、「要旨」を基に例の「全力疾走モード」でメモを取りながら聞いていたら、かなり疲弊したと思います。

この書面のスタイルもプレゼンテーションの仕方に工夫の余地があると思います。
逆に要旨の1行コメントだけを順番に映写し、手元には何も持たせずに話をしたほうが効果的だったかもしれません。

またそもそも弁護側の冒頭陳述は、最初に殺人未遂の構成要件である「殺意」の説明をしたかと思ったらなし崩しに事実関係の説明になり、それが殺意を抱く動機がなかったことの説明なのか、死に至らしめる積極的な行為をしていないことを説明したいのかいまひとつわかりにくかったという部分もあります。


弁護側の主張はつぎの通り

①被告人と志村は10年来の友人であり、腹を立てることはあっても殺意まで抱くというのは不自然。
②包丁を持ち出そうとしたのは脅そうとしたから。
③呼び出された志村が「何の用だ」と横柄な態度を取ったので、脅してやろうと包丁を取り出したところ、もみ合いになって刺さってしまっただけ。
④加東が駆けつけたとき被告人は攻撃をしてはおらず、加東に対しても抵抗しなかった。
⑤傷も刃渡り17cmの包丁にしては浅く、被告人に強く刺す意思はなかった。
⑥被告人は興奮していて加害行為の瞬間の記憶はないが、一方で志村証言も信用できない(証人尋問で明らかにする)
⑦被告人は事件当日炎天下で昼食も取らずに仕事をし、疲労と空腹で酔いが回りやすい状態になっており、通常の判断能力を欠いていた。
⑧志村の怪我は後遺症もなく、一方被告人は深く反省をしている。被告人は廃品回収業を十数年まじめにやっているが刑務所に入れられたら解雇され、出所後も生活の見込みが立たない。

ところで⑧は冒頭陳述で言うようなものなのでしょうか。情状などは最終弁論で出てきそうな話です。
もしそうだとしても、本当に殺人未遂なら職を失っても仕方ないよなぁ、などとこちらも結論前倒し的な考えになってしまいます。
素人としては、まずは犯罪行為をやったかやってないかの議論をしたあとで言ってほしい感じです。


*******


ということで、個人的には冒頭陳述を終わった時点で、説明のしかただけをとってみれば検察側の方に好印象を持ちました。


ここで休憩し、一旦評議室に戻ります。


(つづく)。
コメント
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