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電子スピンの自在な操作が可能な積層材料を開発、超高記録密度・省エネ磁気メモリの実現に

2020-03-13 | 科学・技術
 量子科学技術研究開発機構量子ビーム科学部門の李松田主任研究員、境誠司プロジェクトリーダーらは、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の雨宮健太教授、物質・材料研究機構の桜庭裕弥グループリーダーらとの共同研究により、電子スピンを使った情報処理に重要な、電子スピンの向きを揃える性能とスピンの向きを保つ性能のそれぞれに最も優れるホイスラー合金とグラフェンからなる積層材料の開発に成功した。この新しい材料により電子スピンの自在な操作が可能になることで、超高記録密度で省エネな磁気メモリの実現など、日常生活の情報化を支える情報技術の発展に新たな道が拓かれることが期待できる。本成果は、Advanced Materials誌のオンライン版に2019年12月3日(火)12:00(現地時間)に掲載。
 ポイント
 〇電子スピンを自在に操ることができる積層材料の実現により、超高記録密度な磁気メモリの実現など情報技術の発展に新たな道筋
 〇世界で初めて電子スピンの制御と保持の性能に最も優れたホイスラー合金とグラフェンからなる積層材料の開発に成功し、電子スピンの自在な操作が可能に
 研究の背景
 近年、情報機器の高性能化やインターネットの発達など情報化社会の発展に伴い、電子のスピンを利用することで多くの情報を少ない電力で保存できる磁気メモリのさらなる高記録密度化が求められている。磁気メモリは、電子スピンの向きが揃った電流(スピン偏極電流)を生み出す磁性体の層(磁性層)とスピン偏極した電流を伝える非磁性体の層(スペーサー層)を積み重ねた積層材料からなる磁気抵抗素子で出来ている。磁気抵抗素子は、積層材料を流れるスピン偏極電流の大/小が(電気抵抗)がスペーサー層の上下にある電極層の磁気の向き(磁石の方向)に応じて変化する磁気抵抗効果という現象を利用してデジタル情報の0/1を記録する。
 現在のハードディスクやMRAMなどの磁気メモリにはトンネル磁気抵抗素子という種類の磁気抵抗素子が使われている。トンネル磁気抵抗素子には、磁性層として強磁性金属、スペーサー層として絶縁性の酸化物からなる積層材料が用いられている。この素子は、スピン偏極電流に含まれる電子のスピン偏極率の大きさを反映して磁気抵抗比が高いことが特徴であるが、スペーサー層に絶縁体を用いているため電気抵抗が高く、電気抵抗を下げようとして酸化物の厚さを薄くすると、酸化物の質が低下して磁気抵抗比が下がってしまう問題を抱えている。そのため、現在の磁気抵抗素子では、電子のスピン偏極率を反映する磁気抵抗比の高さとスピン偏極電流が流れる際の電気抵抗の大きさを、次世代の磁気メモリに必要とされる領域に合わせることができていない。このように、磁気メモリをさらに高記録密度化するためには、高スピン偏極率の電流を低抵抗で流すことができる、即ち、電流に含まれる電子のスピンを効率良く操作できる積層材料を開発する必要があった。
 成果の詳細
 研究チームは、電子スピンの効率的な操作が可能で、高スピン偏極率の電流を低い電気抵抗で流すことができる積層材料を実現するための新しいアプローチとして、磁性体の中で最もスピン偏極率が高いホイスラー合金と非磁性体の中でスピンの伝達能力に最も優れるグラフェンを積層することを考えた。
 グラフェンと磁性金属の積層材料は、これまでニッケルやコバルトなど一般的で構造が単純な磁性金属を用いて作製されてきたが、ホイスラー合金のように多種類の元素を含み複雑な構造を持つ金属材料とグラフェンの積層化は世界に例がなかった。そこで研究チームは、はじめにグラフェンとホイスラー合金薄膜を積層化する作製技術の開発に取り組んだ。試料の酸化を防ぐために超高真空を保ちながら、マグネトロンスパッタリング法と化学気相成長法という手法を用いてホイスラー合金とグラフェンを順次成長する技術を開発し、試料の作製条件を最適化した結果、ホイスラー合金の一種であるCFGG合金薄膜(組成:Co2FeGe0.5Ga0.5)の表面に厚さが一原子層のグラフェンが完全に覆うように成長した積層材料を作製することに成功した。これにより、世界で初めてグラフェン/ホイスラー合金積層材料を実現した。
 さらに、研究チームは、深さ分解X線磁気円二色性分光という放射光を用いた分析技術を使って、グラフェン/CFGG合金積層材料に含まれるグラフェンとCFGG合金の状態を調べた。その結果、グラフェン/CFGG合金積層材料では、グラフェンとCFGG合金が接する界面と呼ばれる領域でも、CFGG合金が本来持っている磁気的な性質や高いスピン偏極率が失われていないことが分かった。また、グラフェンについても、ディラックコーンと呼ばれる特徴的な電子状態が保たれていることが分かった。これらの結果から、グラフェン/CFGG合金積層材料では、それぞれの材料が本来持っている電子スピンの向きを完全に近く揃える性質とスピンの向きを保ったまま低抵抗で伝えることができる性質が積層した状態でも保たれており、磁気抵抗素子への応用に理想的といえる、スピン偏極電流の効率的操作に最適な状態が実現されていることが明らかになった。
 今後の展望
 今回、電子のスピン偏極率が最も高いホイスラー合金と電子のスピンを伝える性質に最も優れるグラフェンを積層する技術を開発し、スピン偏極電流の効率的操作に最適な積層材料を実現できたことで、磁気メモリの高記録密度化などスピントロニクスによる情報技術の発展に新しい道筋が開かれた。
 現在、研究チームでは、グラフェン/CFGG合金積層材料を用いた磁気抵抗素子の開発を進めている。また、今後も原子スケールの材料の積層化や複合構造による電子・磁気的性質の制御や機能化に注目して研究を行い、スピントロニクス材料・デバイスの高度化による情報技術の発展に貢献する。
 ◆用語解説
 〇電子スピン、スピン偏極率
 電子の自転により生じる磁石の性質をスピンという。スピンには上向きと下向きという2つの状態がある。材料の中で電子スピンの向きの分布が上向きに偏ることをスピン偏極という。また、スピン偏極の度合いはスピン偏極率(P)として表され、上向きスピンを持つ電子の数(Dup)と下向きスピンを持つ電子の数(Ddown)によってP=(Dup-Ddown)/(Dup+Ddown)と定義される。 電子スピン
 電子のスピンには上向きと下向きの二つの状態がある。スピントロニクスでは、例えば、スピンの上向きを0、下向きを1のデジタル情報として演算や記憶を行う。
 〇ホイスラー合金
 ハーフメタルと呼ばれる磁石(磁性体)の一種である。ハーフメタルとは、例えば、上向きスピンが金属的な状態を持つ一方で下向きスピンはバンドギャップと呼ばれる半導体的な状態を持つために、電流として材料の中を流れることができるフェルミ準位付近の電子(伝導電子)のスピンの向きが一方向に完全に揃っている材料を指す。ホイスラー合金は、そのようなハーフメタルの一種であるが、室温より遙かに高い温度まで磁石の性質を保つことができることなど実用に適した特性を持つことから、スピントロニクスデバイスの材料として注目されている。
 〇グラフェン
 炭素原子が蜂の巣状に結合してできた厚さが1原子のシート状の物質である。シリコン等と比較して数桁以上も高速に電子を運ぶことができ、スピン軌道相互作用と呼ばれる電子のスピンの向きに乱れが生じる原因になる作用が全物質の中で最も弱いこと等の特徴を持つことから、スピントロニクスへの応用が期待されている材料である。また、厚さが1原子の状態でも安定に存在できることや軽量かつ高強度であること、化学処理等によりその性質を幅広く制御できることなどの特徴から、スピントロニクスデバイスに限らず、バイオセンサーや電池、飛行機の部材など様々な応用が期待されており、多くの分野で実用化を目指した研究開発が進められている。
 〇磁気メモリ
 微小な磁石(スピンの集合体)を使ってデジタル情報を記録するメモリの総称。磁気メモリは磁性体のスピンの向きにより情報を記録しているので、電源がなくても情報が失われない。磁気メモリの種類には、円盤上に塗布した磁性体の磁気の向き(上向き/下向き)を磁気抵抗素子で検出することによりデジタル情報(0/1)を読み出すハードディスクドライブと、磁気抵抗素子そのものに含まれる磁性体の磁気の向きに応じた素子の電気抵抗の変化(高抵抗/低抵抗)をデジタル情報(0/1)として読み出す磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)がある。
 〇スピントロニクス
 電子のスピンの向き(上向き/下向き)をデジタル情報の0と1のように扱い、これを制御したり識別したりすることで情報の処理を行う技術である。電子の電荷に加えてスピンを情報処理に用いることで、今日の情報技術が直面する電力消費の肥大化などの問題を克服することができる技術として注目されている。
 〇磁気抵抗素子、磁気抵抗比
 磁性体からなる磁性層と非磁性体からなるスペーサー層を磁性層/スペーサー層/磁性層の順に積み重ねた積層材料からなる素子を磁気抵抗素子と呼ぶ。磁気抵抗素子では、上下の磁性層の磁気の相対的な向き(平行/反平行)に応じて素子の電気抵抗が変化(大/小)する磁気抵抗効果と呼ばれる現象を利用してデジタル情報(0/1)を記録する。
 現在、磁気メモリに使われている磁気抵抗素子は、トンネル磁気抵抗素子と呼ばれるもの。このトンネル磁気抵抗素子では、絶縁体の酸化物がスペーサー層に使われており、電流は、上下の磁性層の間をスペーサー層を介したトンネル効果により流れる。磁気抵抗素子の性能の指標として、磁性層の磁化の向きにより電気抵抗が変化する割合を百分率で表したものを磁気抵抗比と呼ぶ。
 〇マグネトロンスパッタリング法
 アルゴンなどの不活性ガスを数百ボルトの電圧をかけながら真空中に導入することで放電を発生させ、それによって生じた電子を磁場により囲い込むことでターゲットの近くに密度が濃いプラズマを生成し、そこから生じたイオンをターゲットに衝突させる事で、ターゲットの表面からたたき出された原子等を基板上に堆積させて薄膜を成長させる方法である。
 〇化学気相蒸着法
 目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、試料表面における原料ガスとの化学反応を利用して薄膜を成長させる方法である。
  〇深さ分解X線磁気円二色性分光
 X線磁気円二色性分光とは、磁性体の試料に円偏光X線を照射するとX線の吸収量が試料の磁化(磁石)の方向に応じて変化する現象(磁気円二色性)を計測することで、試料の磁気的な性質を調べる分光手法である。X線のエネルギーを特定の元素の吸収端付近に合わせて測定することで、試料に含まれる個々の元素の磁気モーメント(磁気の強さ)を調べることができる。
 深さ分解X線磁気円二色性分光は、上記に深さ分解の機能を持たせた手法で、X線の吸収に伴い試料の表面から放出される電子を放出角度により分別して測定することで、放出角度に応じた検出深さの変化を利用して、試料表面からの深さに応じた磁気モーメントの変化を調べることができる。
 〇ディラックコーン
 グラフェンは、炭素原子がシート状に並んだ形態に起因して電子の状態に特徴的な円錐型の構造が現れる。そのような構造をディラックコーンと呼ぶ。ディラックコーンの電子は、グラフェンの中を高速に流れることができる。
 グラフェンの中の電子は、ディラックコーンと呼ばれる円錐型の運動量(速度)の分布を持つ。

 晴れ。気温は高く、最高気温17℃、でもあまり温かさを感じない・・風が強いからかな。
 駅に向かう道沿い畑で、”ネコヤナギ”の蕾が大きくなり、半分位は開花している。花穂が銀白色で柔らかく、猫の尻尾の様に見える。葉はない・・花(尾状花序)の後に出る。
 ヤナギ(柳)は、ヤナギ科ヤナギ属 の樹木の総称である。世界に約350種あるとされ、日本でも30種以上はあると言う。日本では、柳と言えば”シダレヤナギ(枝垂柳、落葉高木)”を指すことが多いが、”ネコヤナギ(猫柳、落葉低木)”もある。
 名(ネコヤナギ:猫柳)の由来は、花穂が銀白色で柔らかく、猫の尻尾の様に見える「猫の尾をした柳」からである。別名には、「猫の尾」ではなく「小犬の尾」に例えて”エノコロヤナギ(狗尾柳)”とある。
 因みに、”ネコヤナギ”の花言葉は、率直・自由・思いのまま。
 ネコヤナギ(猫柳)
 別名:川楊(かわやなぎ)、狗尾柳(えのころやなぎ)
 学名:Salix gracilistyla
 ヤナギ科ヤナギ属
 落葉性低木
 雌雄異株
 原産地は日本・中国など
 早春、葉が出る前に大きな花穂を付ける
 開花時期:3月~4月
 花は尾状花序