首都大学東京大学院理学研究科の伊與田正彦客員教授(名誉教授)、西長亨准教授、理化学研究所開拓研究本部内山元素化学研究室の村中厚哉専任研究員、内山真伸主任研究員(東京大学大学院薬学系研究科教授)、横浜国立大学大学院環境情報研究院の大谷裕之 教授、名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科の青柳忍教授、信州大学繊維学部の小林長夫 特任教授らの研究グループは、チオフェン分子を環状に連結した6T4A-4Buリング型分子に酸化処理を施すことで、世界で前例のない二重ドーナツ型構造の巨大超分子を作ることに成功した。この二重ドーナツ型分子の特性を詳しく調べた結果、磁界中では分子リングに沿って回転するように電気が流れるという、電気回路に使われるコイルと同じ性質を示すことを見出した。この特性により、6T4A-4Buは磁気に応答する単分子素子として、各種の応用開発が期待できる。本研究成果は、米国化学会が発行する英文誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載。
ポイント
〇巨大環状分子を用いるナノ構造体の構築に成功した
〇70個の共役π電子を有する二重ドーナツ型巨大超分子の構造と電子状態を明らかにした
〇チオフェンから作った二重ドーナツ型巨大超分子が磁界中で環電流特性を示すことを見出した
〇本研究の成果は、磁気に応答する単分子素子として、各種の応用展開が期待できる
研究の背景
マテリアルサイエンスによって、新しい機能をもつ物質がつくり出されているが、その中でも周囲の環境の変化や外界からの刺激に応じて自ら応答するスマートマテリアルが注目を集めている。また、ナノサイズの分子機能材料を用いるナノサイエンスは、21世紀において鍵となる新原理と新技術の探索を続けている。しかしながら、分子機能材料のもつ秘められた可能性を最大限に引き出すのは、一般に用いられている化学物質を組み合わせるだけでは不十分で、従来とは異なる電子状態をもつ分子の物性・機能の研究が必要とされている。本研究では、非常に大きな分子が作る二重ドーナツ型巨大超分子を用いることによって、磁気に応答する新しい単分子素子の開発を目指した。
研究の詳細
チオフェンは、ベンゼンと同様に自然界にも存在する環状分子で、チオフェンを直線状に連結した導電性の高分子化合物(オリゴチオフェン、ポリチオフェン)は、発光ダイオードや有機EL、電界効果トランジスタ、太陽電池など、幅広い用途に応用できる。このようなチオフェンの機能を更に拡張するために、今回6個のチオフェンを環状に連結した6T4A-4Buリング型分子を合成し、酸化処理を施したときの分子特性を詳しく調べた。酸化処理により分子内の電子が1個だけ不足したラジカルカチオンの状態にすることで、新しい磁気的・電気的な特性が現れることを期待した。光吸収や電子スピン共鳴、磁気円偏光二色性などの各種測定の結果、6T4A-4Buのラジカルカチオンは溶液中で2個の分子が組み合わさったダイマーを形成することが分った。溶液から結晶を作り、大型放射光施設SPring-8でのX線回折により結晶構造を調べた結果、6T4A-4Buのラジカルカチオンは結晶中で図2 ① に示す二重ドーナツ型の巨大超分子を形成することが分かりました。分子リング内部に取り込まれた小分子(CH2Cl2)の磁界中の挙動を核磁気共鳴で調べたところ、通常よりも高い磁界に対して共鳴吸収を示した。この結果を理論計算で解析することで、6T4A-4Buのラジカルカチオンは、分子内の70個もの共役π電子により、磁界中で6個のチオフェンでできた分子リングに沿って回転するように電気が流れる環電流特性を示すことを明らかにした。この特性は、6T4A-4Buの二重ドーナツ型分子が1ナノメートル(10億分の1メートル)程度の大きさの超分子コイルとして働くことを意味する。
研究の意義と波及効果
本研究の大きな成果は、チオフェンを直線状に連結した従来の分子では絶対に発現し得ない二重ドーナツ型の分子構造と環電流特性を、チオフェンを環状に巧みに連結して組み合わせた超分子πダイマーにおいて初めて見出した点にあり、チオフェンなどの有機分子を基盤とする分子エレクトロニクス技術の発展に大きく貢献するものである。
◆用語解説
〇チオフェン、ブチル基
チオフェン (thiophene) とは、有機化合物の一種で、炭素原子4個と硫黄原子1個が5角形状に結合してできる複素環式化合物。化学式は C4H4S。フランの酸素が硫黄に置き換わった5員環構造を持つ。タール中に少量含まれ,工業的にはn-ブタンと硫黄から合成される。
ブチル基(butyl group)とは、ブタン、あるいはイソブタンから水素が1つ取り除かれた形を持つ1価の基のこと。アルキル基の一種。元のブタンの構造と、取り除かれた水素の位置からいくつかの種類がある。
ブチル(英語表記;butyl)
アルキル基C4H9-の名称で、Buと略称。次の4種類の異性構造がある。
n-ブチル(n-Bu-)CH3CH2CH2CH2-
イソブチル(i-Bu-)(CH3)2CHCH2-
sec-ブチル(s-Bu-)CH3CH2CH(CH3)-
tert-ブチル(t-Bu-)(CH3)3C-
〇 酸化処理
酸素など電子を受け取りやすい物質(酸化剤)の作用などにより、対象分子から電子を奪い取る処理。
〇超分子
複数の分子が分子間相互作用により規則的に集合した安定な化学種。
〇コイル
導線を環状やらせん状などに巻いたもので、電磁石や発電機、モーターなどに利用される電気回路内の素子。
〇ラジカルカチオン
奇数個の電子を持つ陽イオン性の分子で、偶数個の電子を持つ中性の分子を酸化処理することで得られる。
〇光吸収
物質の紫外、可視、近赤外領域の光の吸収の大きさを測定する実験で、分子内の電子の光励起エネルギーに関する情報などが得られる。
〇電子スピン共鳴
磁界中に置いた物質の電子スピン(電子が磁界に応答して2つの状態をとる性質)を測定する実験で、分子内の電子の磁気的性質に関する情報などが得られる。
〇磁気円偏光二色性
磁界中に置いた物質の光吸収の偏光状態による変化を測定する実験で、分子内の電子の光励起状態に関する情報などが得られる。
〇ダイマー
2個の同種分子が組み合わさることで形成される1組の分子。
〇SPring-8
高輝度短波長なX線を利用できる兵庫県にある共同利用施設。
〇 X線回折
物質に照射したX線の回折・散乱像を測定する実験で、結晶内の分子の立体構造などが得られる。
〇核磁気共鳴
磁界中に置いた物質の核スピン(原子核が磁界に応答して複数の状態をとる性質)を測定する実験で、分子内の特定の原子核の磁気的性質に関する情報などが得られる。
〇共役(きょうやく)π電子
分子内に交互に並んだ単結合と多重結合のために非局在化した電子。
〇環電流
磁界中に置いた環状の分子内に生ずる、分子リングに沿った共役π電子の流れ。
天気は晴れ。風が少し強く、気温も高くない。
近所のレストランのお庭で、”ユキゲユリ”に花が咲いている。”ユキゲユリ”は高山植物で、自生地では雪が解けずに残っていても花が咲くこともあることからこの名(雪解ゆり)になったと言う。別名に”チオノドクサ”とあるが、チオノドクサは属名である。”チオノドクサ”には数種類が知られている。”チオノドクサ・リュシーリアエ(C. luciliae)”が良く知られており、花色は澄んだ青で中心が白い。花の澄んだ青色で中心が白色は、和名の”ユキゲユリ(雪解百合)”が似合うかな。
学名の「Chionodoxa」は、ギリシア語の「chion:雪」と「doxa:栄光、華麗」からと言う。英名では「Glory of the snow」との事で、何れも雪に関係している。
ユキゲユリ(雪解百合)
別名:チオノドクサ
英名:Glory of the snow
学名:Chionodoxa luciliae Boiss.
ユリ科チオノドクサ属
クサスギカズラ科、ヒヤシンス科、キジカクシ科に分類することもある
多年草(秋植え球根、径4cm位)
原産地は地中海沿岸~小アジア
開花時期は2月~4月
花色は 青・紫・白・ピンク
ポイント
〇巨大環状分子を用いるナノ構造体の構築に成功した
〇70個の共役π電子を有する二重ドーナツ型巨大超分子の構造と電子状態を明らかにした
〇チオフェンから作った二重ドーナツ型巨大超分子が磁界中で環電流特性を示すことを見出した
〇本研究の成果は、磁気に応答する単分子素子として、各種の応用展開が期待できる
研究の背景
マテリアルサイエンスによって、新しい機能をもつ物質がつくり出されているが、その中でも周囲の環境の変化や外界からの刺激に応じて自ら応答するスマートマテリアルが注目を集めている。また、ナノサイズの分子機能材料を用いるナノサイエンスは、21世紀において鍵となる新原理と新技術の探索を続けている。しかしながら、分子機能材料のもつ秘められた可能性を最大限に引き出すのは、一般に用いられている化学物質を組み合わせるだけでは不十分で、従来とは異なる電子状態をもつ分子の物性・機能の研究が必要とされている。本研究では、非常に大きな分子が作る二重ドーナツ型巨大超分子を用いることによって、磁気に応答する新しい単分子素子の開発を目指した。
研究の詳細
チオフェンは、ベンゼンと同様に自然界にも存在する環状分子で、チオフェンを直線状に連結した導電性の高分子化合物(オリゴチオフェン、ポリチオフェン)は、発光ダイオードや有機EL、電界効果トランジスタ、太陽電池など、幅広い用途に応用できる。このようなチオフェンの機能を更に拡張するために、今回6個のチオフェンを環状に連結した6T4A-4Buリング型分子を合成し、酸化処理を施したときの分子特性を詳しく調べた。酸化処理により分子内の電子が1個だけ不足したラジカルカチオンの状態にすることで、新しい磁気的・電気的な特性が現れることを期待した。光吸収や電子スピン共鳴、磁気円偏光二色性などの各種測定の結果、6T4A-4Buのラジカルカチオンは溶液中で2個の分子が組み合わさったダイマーを形成することが分った。溶液から結晶を作り、大型放射光施設SPring-8でのX線回折により結晶構造を調べた結果、6T4A-4Buのラジカルカチオンは結晶中で図2 ① に示す二重ドーナツ型の巨大超分子を形成することが分かりました。分子リング内部に取り込まれた小分子(CH2Cl2)の磁界中の挙動を核磁気共鳴で調べたところ、通常よりも高い磁界に対して共鳴吸収を示した。この結果を理論計算で解析することで、6T4A-4Buのラジカルカチオンは、分子内の70個もの共役π電子により、磁界中で6個のチオフェンでできた分子リングに沿って回転するように電気が流れる環電流特性を示すことを明らかにした。この特性は、6T4A-4Buの二重ドーナツ型分子が1ナノメートル(10億分の1メートル)程度の大きさの超分子コイルとして働くことを意味する。
研究の意義と波及効果
本研究の大きな成果は、チオフェンを直線状に連結した従来の分子では絶対に発現し得ない二重ドーナツ型の分子構造と環電流特性を、チオフェンを環状に巧みに連結して組み合わせた超分子πダイマーにおいて初めて見出した点にあり、チオフェンなどの有機分子を基盤とする分子エレクトロニクス技術の発展に大きく貢献するものである。
◆用語解説
〇チオフェン、ブチル基
チオフェン (thiophene) とは、有機化合物の一種で、炭素原子4個と硫黄原子1個が5角形状に結合してできる複素環式化合物。化学式は C4H4S。フランの酸素が硫黄に置き換わった5員環構造を持つ。タール中に少量含まれ,工業的にはn-ブタンと硫黄から合成される。
ブチル基(butyl group)とは、ブタン、あるいはイソブタンから水素が1つ取り除かれた形を持つ1価の基のこと。アルキル基の一種。元のブタンの構造と、取り除かれた水素の位置からいくつかの種類がある。
ブチル(英語表記;butyl)
アルキル基C4H9-の名称で、Buと略称。次の4種類の異性構造がある。
n-ブチル(n-Bu-)CH3CH2CH2CH2-
イソブチル(i-Bu-)(CH3)2CHCH2-
sec-ブチル(s-Bu-)CH3CH2CH(CH3)-
tert-ブチル(t-Bu-)(CH3)3C-
〇 酸化処理
酸素など電子を受け取りやすい物質(酸化剤)の作用などにより、対象分子から電子を奪い取る処理。
〇超分子
複数の分子が分子間相互作用により規則的に集合した安定な化学種。
〇コイル
導線を環状やらせん状などに巻いたもので、電磁石や発電機、モーターなどに利用される電気回路内の素子。
〇ラジカルカチオン
奇数個の電子を持つ陽イオン性の分子で、偶数個の電子を持つ中性の分子を酸化処理することで得られる。
〇光吸収
物質の紫外、可視、近赤外領域の光の吸収の大きさを測定する実験で、分子内の電子の光励起エネルギーに関する情報などが得られる。
〇電子スピン共鳴
磁界中に置いた物質の電子スピン(電子が磁界に応答して2つの状態をとる性質)を測定する実験で、分子内の電子の磁気的性質に関する情報などが得られる。
〇磁気円偏光二色性
磁界中に置いた物質の光吸収の偏光状態による変化を測定する実験で、分子内の電子の光励起状態に関する情報などが得られる。
〇ダイマー
2個の同種分子が組み合わさることで形成される1組の分子。
〇SPring-8
高輝度短波長なX線を利用できる兵庫県にある共同利用施設。
〇 X線回折
物質に照射したX線の回折・散乱像を測定する実験で、結晶内の分子の立体構造などが得られる。
〇核磁気共鳴
磁界中に置いた物質の核スピン(原子核が磁界に応答して複数の状態をとる性質)を測定する実験で、分子内の特定の原子核の磁気的性質に関する情報などが得られる。
〇共役(きょうやく)π電子
分子内に交互に並んだ単結合と多重結合のために非局在化した電子。
〇環電流
磁界中に置いた環状の分子内に生ずる、分子リングに沿った共役π電子の流れ。
天気は晴れ。風が少し強く、気温も高くない。
近所のレストランのお庭で、”ユキゲユリ”に花が咲いている。”ユキゲユリ”は高山植物で、自生地では雪が解けずに残っていても花が咲くこともあることからこの名(雪解ゆり)になったと言う。別名に”チオノドクサ”とあるが、チオノドクサは属名である。”チオノドクサ”には数種類が知られている。”チオノドクサ・リュシーリアエ(C. luciliae)”が良く知られており、花色は澄んだ青で中心が白い。花の澄んだ青色で中心が白色は、和名の”ユキゲユリ(雪解百合)”が似合うかな。
学名の「Chionodoxa」は、ギリシア語の「chion:雪」と「doxa:栄光、華麗」からと言う。英名では「Glory of the snow」との事で、何れも雪に関係している。
ユキゲユリ(雪解百合)
別名:チオノドクサ
英名:Glory of the snow
学名:Chionodoxa luciliae Boiss.
ユリ科チオノドクサ属
クサスギカズラ科、ヒヤシンス科、キジカクシ科に分類することもある
多年草(秋植え球根、径4cm位)
原産地は地中海沿岸~小アジア
開花時期は2月~4月
花色は 青・紫・白・ピンク