北海道美術ネット別館

アート、写真、書など展覧会の情報や紹介、批評、日記etc。毎日更新しています

原田マハ『モネのあしあと』(幻冬舎文庫)

2021年09月11日 09時53分58秒 | つれづれ読書録
 アートを題材にした小説で人気の原田マハさんが、印象派を代表するフランスの画家について易しく解説した一冊。  すでに先行書はたくさんあるものの、日本を代表する舞踏家大野一雄とのかかわりや、モネの足跡を追って旅した際の印象など、他の書き手にはない要素をそろえて読ませるあたりは、さすがです。  印象派の時代のフランス社会と現代日本との共通点について、SNSを挙げるあたりも、独自の視点だな~と思いました . . . 本文を読む

佐藤庫之介書論集『書の宙(そら)へ』

2021年09月08日 08時09分51秒 | つれづれ読書録
 絵画や現代アートの批評書は大量に出版されていますが、書道の評論の本は少なく、そのうちのかなりの部分が中国や日本の書の歴史にまつわるもので、現代の日本の書について論じた書物は大きな書店に行ってもごくわずかなのが実情です。  佐藤庫之介さんは札幌在住で、この半世紀にわたり書道評論に健筆をふるってきました(肩書は「美術評論家」ですが、書道以外のジャンルの文章を拝見したことはありません)。書論集刊行委員 . . . 本文を読む

画家・富山妙子さん死去と『わたしの解放』

2021年08月23日 08時32分10秒 | つれづれ読書録
 画家の富山妙子さんが99歳で亡くなり、8月19日の新聞各紙が伝えました。  参考までに北海道新聞に載った共同通信の死亡記事を末尾に転載しておきます。  富山さんに対する関心は近年高まっており、2016年には埼玉県の原爆の図美術館で個展が開かれたのをはじめ、現在発売中の隔月刊誌「美術手帖」8月号の特集「女性たちの美術史」でも、山本浩貴氏による論考「富山妙子 日本の戦争責任から原発まで、政治問題を照 . . . 本文を読む

「美術の窓」2021年5月号「新人大図鑑」を取り寄せてみた

2021年07月31日 06時43分38秒 | つれづれ読書録
 月刊「美術の窓」の5月号は恒例の「新人大図鑑」特集ですが、本屋さんに行くともう6月号の季節になっていたので、地元の本屋さんで取り寄せることにしました。  北海道出身者を探すのが目的です。  今年も 「注目の若手アーティストに訊く!」 「編集部が選ぶ注目の新人 216」 などの項目で合わせて345人が取り上げられています。  雑誌の性格上、現代アートよりも、従来ある絵画・彫刻系の作り手が多くなっ . . . 本文を読む

ネタバレ注意 白濱雅也「Star & Gold(スターとゴールド どうしていいかわからない)」

2021年07月30日 09時09分09秒 | つれづれ読書録
 札幌のTO OV cafe / gallery(ト・オン・カフェ) で8月1日まで開かれている白濱雅也さんの原画展で、「Star & Gold(スターとゴールド どうしていいかわからない)」を買って読んでみました。  分類すると「絵本」ということになるのでしょうが、物語の展開は、ふつう想像される冒険譚を鮮やかに裏切っています。  飼い慣らされて外の世界を知らない牛が2頭、牧場から脱出する―。 . . . 本文を読む

大澤夏美『ミュージアムグッズのチカラ』(国書刊行会)

2021年07月29日 07時23分32秒 | つれづれ読書録
 美術館や博物館に行くのが好きな人は多いでしょうが、それはみな、展示されている物に興味があるからだと思っていました。でも、こんな楽しみ方もあるんですね。  ミュージアムショップなどで販売している数々のグッズを、長く愛好・研究している北海道在住の大澤夏美さんによる初の著書は、全国各地の美術館、資料館、博物館、水族館、動物園、昆虫館、文学館など49の施設のユニークなグッズを紹介した楽しい一冊。ただのカ . . . 本文を読む

休刊するという「日本カメラ」の4月号を見てみたら

2021年04月18日 11時33分23秒 | つれづれ読書録
 「もっともしたしまれているカメラ雑誌」 というキャッチフレーズを掲げ、1950年以来刊行を続けてきた月刊誌「日本カメラ」が5月号で休刊し、会社を清算するということを知り、あわてて本屋に行ってきました。  4月号をめくると、月例写真コンテストへの挑戦や年間購読申し込みを募るページもあって、ほんとうに突然のことだったのだなあと感じます。  筆者はカメラ雑誌はあまり買っていないので、偉そうなことはぜん . . . 本文を読む

岡田温司『西洋美術とレイシズム』(ちくまプリマー新書)

2021年02月16日 07時57分35秒 | つれづれ読書録
 そのものずばりの書名で、帯の文も 「人種差別の根源をキリスト教美術に探る」 と分かりやすいです。  米国で Blacks Lives Matter が浮上しているなど差別の問題の根深さが明らかになっているいま、タイムリーな出版だと思います。  目次は次の通り。 第1章 呪われた息子―ハムとその運命 第2章 ハガルとイシュマエル―追放された母子 第3章 賢者と聖人―キリスト教とレイシズムの . . . 本文を読む

瀬戸正人『深瀬昌久伝』(日本カメラ社)

2021年02月11日 08時40分04秒 | つれづれ読書録
 深瀬昌久(1934~2012)は、上川管内美深町生まれの写真家。  自分の家族の中に外部の人を入れて定期的に撮ったシリーズや、鬼気迫る「鴉」のシリーズなどを撮り、1992年に東川賞を受賞。同年、東京・新宿の行きつけのバーの階段から転落して脳挫傷を負い、その後20年間は特別養護老人ホームで介護を受けながら暮らしました。活動終了後、国際的な評価が高まっています。  この特異な写真家の助手を務め、そ . . . 本文を読む

川村二郎『アレゴリーの織物』(講談社)

2021年02月09日 07時56分52秒 | つれづれ読書録
 書名からでは分からないと思いますが、近年ますます脚光を浴びているドイツ出身のユダヤ系批評家・思想家ヴァルター・ベンヤミンとその周辺の文学についての批評です。  帯には「小説をどう読むか」と書いてありますが、俎上にのぼっている小説はゲーテ『親和力』ぐらいしかなく、批評や戯曲や詩についての文章が中心なので、これは「文学イコール小説」という無意識の反映によるミスリードでしょう。  とくにページをさいて . . . 本文を読む

エドワード・W・サイード『オリエンタリズム』(平凡社ライブラリー)

2021年01月04日 09時25分00秒 | つれづれ読書録
 「現代の古典」です。 筆者の若いころは、人文系で必読の名著といえば、ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(岩波文庫)とかマルクス『資本論』(国民文庫)、フロイト『精神分析学入門』(新潮文庫、中公文庫)あたりが挙がっていたものですが、いま筆頭に名前が出てくるのはこの『オリエンタリズム』ではないかと思います。  世界の人々のものの見方を一変させた著作です。  しかも、先に挙げた . . . 本文を読む

長島有里枝『「僕ら」の「女の子写真」からわたしたちのガーリーフォトへ』

2021年01月02日 09時15分46秒 | つれづれ読書録
 1990年代に若手写真家としてシーンを席巻し、2001年に木村伊兵衛賞を受賞した写真家が、当時主に男性側からなされた批評の数々に対し、当事者として異議申し立てを行った痛快な一冊。  修士論文に加筆したものなので、あくまで学術書の体裁をなしていますが、男性批評家の無意識を完膚なきまでに批判しています。一番のターゲットは「女の子写真」なるカテゴリーをこしらえた飯沢耕太郎氏ですが、もし自分が飯沢氏だっ . . . 本文を読む

藤井匡『現代彫刻の方法』(美学出版)

2020年12月15日 08時46分06秒 | つれづれ読書録
 彫刻について日本語で書かれた本は、たとえば絵画や現代アートに比べると非常に少ないです。  そんな中でも2018年に出た小田原のどか編著『彫刻 SCULPTURE 1 彫刻とは何か』は、一時代を劃する一冊でした。大胆に言ってしまえば、彫刻をめぐる日本語の言説は「木下直之・平瀬礼太・小田原のどか以後」と「それ以前」に分かれるというのが筆者の見方です。つまり、単なる美を探し求める言説から、社会と歴史の . . . 本文を読む

諸星大二郎の漫画について、手元に何の資料もなく語ってみる

2020年11月26日 07時45分25秒 | つれづれ読書録
 道立近代美術館で「諸星大二郎展」が開かれています。  公立美術館で開く漫画の展覧会といえば「北海道出身」というくくりだったり「高橋留美子」「手塚治虫」といった大御所だったりが通例で、諸星大二郎という人選は意外でした。幅広く知られていて多くの来客が見込まれるという漫画家とは思えなかったからです。少なくとも、この会場でマニアックな漫画家の展示を行うなら、同じ時期に「手塚賞」を得てデビューした「星野之 . . . 本文を読む

ヴァルター・ベンヤミン『ドイツ悲劇の根源』(ちくま学芸文庫)

2020年11月17日 07時22分21秒 | つれづれ読書録
 検索でこのブログ記事にたどり着いた方がおられるかもしれませんが、読んで役に立つ解説などはいっさい書いておりませんのでご諒承ください。  ひとことでいうと「つらかった」です。  こんなにつらい読書は、大部の本ではヘーゲル『小論理学』やゲーテ『詩と真実』以来でした。  ヘーゲルのように論旨自体が難解というよりは、ここでとりあげられているバロック期のドイツの演劇についてあまりにもなじみがないことが、 . . . 本文を読む