缶詰blog

世界中の缶詰を食べまくるぞ!

缶詰のある風景『世界一周ひとりぼっち』

2009-01-06 16:02:55 | 連載もの 缶詰のある風景

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 12月25日(火)=第147日目 南緯47度28分 西経55度26分
 午後より風は右に振り、夕方北西になる。しめしめである。(中略)ウーン。急におすしが食べたくなってきた。信子の「お料理メモ」をのぞく。「(つくり方)ご飯は熱いうちに粉末の酢をまぜておきます。カニまたはエビ缶の水を切り、レモンと塩をふりかけます。海苔にご飯とカニ(またはエビ)、ワサビを包み、しょうゆをつけて食べます」。ハイ、おいしくいただきました。
 堀江謙一『世界一周ひとりぼっち』

 これは1973~74年にかけて、ヨットで単独無寄港世界一周を果たしたヨットマン・堀江謙一氏の冒険記である。文中の「信子」というのは、堀江氏の奥様らしい。
 注目すべきは“エビ缶”という記述。
 現在、エビ缶はほとんど見かけることがなくなった。
 TBSテレビの『はなまるマーケット』でも昨年9月、「カニ缶はあるのにどうしてエビ缶はないのか」という視聴者の質問に答えるコーナーがあったほどだ。
番組の該当ブログはこちら、筆者も一寸だけ出演したのだ
 堀江氏の文面からは、70年代当時はエビ缶がポピュラーな存在だったことがわかる。
 しかしその後。冷凍技術の急速な発達によって、エビは冷凍物が普及するようになった。そうなると加熱加工済みのエビ缶は需要が減り、各企業も生産から手を引いていったのである。
 その、今では珍しいともいえるエビ缶2種類を、本日はご紹介しちゃうのだ。



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1つは三越の製品、もう1つはチェコのお土産
どちらも古式ゆかしくプルタブはついてない



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 パカッと開缶。
 双方、ずいぶんと違いがあるではないか。
 まず固体の大きさが違う。さすが三越製、小エビながら身が大きく、色も鮮やか。一方チェコのお土産缶はご覧の通りの大きさ。汁も多い。
 まずは味見を、一口...。
 やっ、味もまったく違う。三越製は非常に薄味で、わずかに塩分が感じられる程度。一方チェコ土産は塩分が強め。
 もとい、三越製が塩分少なめなのだ。チェコ土産は味付けとして充分な塩分濃度である。



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 ここですだちをひとつ切る。
 読者諸賢はご存知の通り、このシリーズは作品の光景を再現するのがウリなのだ。
 文中ではレモンとなっているが、我が家に柑橘類がこれしかないので代用する。



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エビに果汁を絞っておき...



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海苔の上に酢飯・エビ・ワサビを載せて



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 さっ、かくのごとし。
 撮影しているあいだに海苔がしけってしまい、ふにゃふにゃ手巻き寿司となった。
 では堀江氏とその奥様に敬意を表して、いただきます。
 ふむ、ふむ...。エビにすだちが利いている。そのままでも生臭さはないのだが、柑橘の爽やかさが加わるとまた格別なこと、いうを待たないだろう。
 しかし茹でエビ特有の“ぷりっ”とした食感はあまり感じられない。製造時の加圧加熱によるものであろう。
 ともあれ、缶を開ければすぐに食べられるのが缶詰製品の良いところなのだ。これ、サラダなんかに使うのもいいかもしれない。




 三越の小えび
 固形量:125g
 原材料名:小えび、食塩、調味料(アミノ酸)、pH調整剤
 原産国:日本(北海道紋別郡、オホーツクニチロ)

 

 チェコのお土産エビ缶
 固形量:120g(総内容量:200g)
 原材料名:チェコ語のため不明
 原産国:何とタイであった!




缶詰のある風景『蛇』

2008-12-21 13:07:00 | 連載もの 缶詰のある風景

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 ストーブの上では、鍋の水が豆缶のまわりで、はげしく沸騰していた。フィリップス博士は大きなピンセットで豆缶を引きあげ、缶をあけて、豆をガラス皿にうつした。食べているあいだも彼はテーブルの上のヒトデを見まもっていた。ヒトデの突き出た腕のあいだから乳色の液体のしずくがにじみ出ていた。彼は急いで豆をうのみにした。
 ジョン・スタインベック『蛇』訳/大久保康雄

 不穏な予感を感じさせるこの光景、スタインベックの短編『蛇』の中の一文である。
 しかし読みすすむうちに、突如として奇異な女性が登場する。
 この女性が博士に依頼する内容は、どこか人をぞっとさせるものだ。そのことを考えると、博士の実験行為は残酷とはいえ、純粋に学問的な欲求に基づいたものなのだと妙に納得してしまう。ちょいと不思議な小説ではある。
 そこで本日は“豆缶”にご登場願うことになった。
 知人からいただいた英国土産、ハインツのベイクド・ビーンズなのだ。



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 イージーなプルタブを引っぱって開缶。
 このぬるっとした、いかにも糖度の高そうなトマトソース。缶詰好きの読者諸賢には見慣れたものでありましょう。
 英国ハインツ社製とはいえ、ハインツはもともと米国創業の会社。となれば、そこの缶詰商品のトマトソースが甘いのはこれ、いうを待たない。米国製の缶詰の大半は、とにかく甘いのだ。
(ハインツのケチャップは決して甘い味付けではないのだけど)



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 さっ、小説の風景を再現してみよう。
 缶詰の紙ラベルを取りさって、鍋で煮立てる。
 いつも思うのだけど、ラベルを取ったあとの缶の佇まいが実に美しい。地のステンレスが輝いている。



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 かくのごとし。
 作中では「豆をガラス皿にうつした」となっているが、お話の舞台は実験室。
 ということはこんな気取った皿ではなく、何か実験でも使用するような皿を使ったのかもしれない。
 ともあれ、スプーンでひと匙すくって、いただいてみよう。
 むっ。やはり、いつものお味。
 すなわちハインツのケチャップに砂糖をまぶし、黒胡椒を足したような風味である。
 この味は同社の代表作「ポーク・アンド・ビーンズ」缶にも共通している。“アメリカの味”といってもいいと思う。
 この豆缶は、屋内で食べるのは似合わない。
 野外に持ち出し、焚き火で直に温めて、好みの調味料を振りかけて食べるのがもっとも適していると思う。
 冴えた月が昇り、さらに冷えこみの増した川岸。
 焚き火にあたっているすねや顔だけが熱く、背中が石のように冷たい。
 炭火のわきに置いた豆缶が、ふつふつと煮えたぎっている。枝で引き寄せ、ケチャップとタバスコを振りかける。皮の手袋でつかんで、大きな木の匙ですくって、一口...。
 そうなのだ。こうした甘い缶詰も、野外では実に美味いものなのだ。合掌。




 内容量:200g
 原材料名:豆(51%)、トマト(33%)、水、砂糖、塩、調整とうもろこし粉、酢、スパイス類、ハーブ類
 原産国:英国




缶詰のある風景『ライムライト』 K.T.キッパーヘリング(ライト)

2008-09-02 07:05:02 | 連載もの 缶詰のある風景

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「そうだ、食事にしようか。このすてきな燻製ニシンはどうかな?」
 チャールズ・チャップリン『ライムライト』

 今回の『缶詰のある風景』は映画のワンシーンである。それも、名画といっても過言ではないチャップリンの『ライムライト』なのである。
 のちにプリマドンナとなるテリーを自宅で静養させるチャップリン。彼女の絶望した人生観に対して、チャップリンはユーモアを交えた回訓を与えるのだが、その名台詞は現代でもよく引用されている。
「人生に必要なのは勇気と想像力、それといくばくかの金だ」というのも、このライムライトの中で登場するのだ。
「人生はみじめで辛い。だが素晴らしい」
 これも得心のいく名台詞。ほろ苦さとユーモアのバランスが、さすが英国人だなと感心する。
 しかし缶詰blogでは、名台詞よりも食べ物に反応してしまうのである。チャップリンが尻尾をつまんでぶら下げ、テリーに見せた2尾の燻製ニシンが非常に気になったのである。




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 そこで本日は、燻製ニシンの缶詰。
 燻製されているということ、さらにオイル漬けになっていることをのぞけば、我が国のソフトタイプの身欠きニシンとそっくりである。




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 かくのごとし。
『ライムライト』では、肝心のニシンを食するシーンは出てこない。英国らしい食べ方というのが思いつかなかったので、ライ麦パンに乗せてみたのだ。
 では、失敬して一口...。
 むっ、見た目以上に美味い。燻製臭が強く、さらにニシン独特のエグさを感じさせる匂いも強いが、噛むと旨味がじっくりとにじみ出てくる。
 そこはやはり、我が国の身欠きニシンと同じなのである。
 ライ麦パンも味・香りが強いので、燻製ニシンに負けていない。個性の強いもの同士でマッチしたようだ。




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 ところで、この日。
 缶詰blogはエイ出版(エイは木偏に世)さんの『月刊ライトニング』の取材を受けた。
 我が家にプロのカメラマンが入り、缶詰たちはたくさんのフラッシュを浴びて嬉しそうだった。
 10月号『It's a Collector's World 26人のモノとストーリーで綴る...おかしなおかしなコレクター列伝』という企画で、筆者はその番外編に登場している。現在書店で発売されているので、読者諸賢の方々は売り切れないうちにご購入されたし!

 ともあれ、燻製ニシンである。
 サンドイッチだけではつまらないので、かくなる上は...。




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 ニシンそばであります。
 しかしこれは脂臭く、かなりの失敗作であった。




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 ニシン漬けであります。
 これは会津の郷土料理で、身欠きニシンをショーユと酢の混合液に漬け込んだもの。あいだに山椒の葉っぱを入れるのが特徴なのだ。
 これは美味かった。脂の乗ったニシン漬けという、一風変わった一品となった。簡単に作れ、酒の肴に最適。酸っぱいのがお好きな御仁にはオススメである。

 折しも、秋。チャップリンの映画でも観ながら、また新たな缶詰を楽しもうではないかい。




Lightning471 内容総量:190g
 内容総量:190g
 原材料名:ニシン、植物油脂、塩
 原産国:アイルランド(輸入販売:川口貿易


 



缶詰blog5年目突入! 缶詰のある風景『白い国籍のスパイ』

2008-06-03 14:41:42 | 連載もの 缶詰のある風景

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 トーマスは中庭へ出ていき、自動車のトランクを開けた。そして、バターを半ポンド、罐入りのクリームチーズと肉エキスとコーンビーフをひと罐ずつ持って戻ってきた。
「ひとつ、私にやらせてください、フラウ・ヘルプリヒト」と言って、さっそく調理台の脇に立って仕事にかかった。(中略)
「おお」と言うなり、ヘルプリヒトの細君は泣き出した。
「コーンビーフ! 夢にまで見たものです。でもまだいちども、本物を見たことがないんです!」
J・M・ジンメル『白い国籍のスパイ』訳/中西和雄

 これは「トイレに行く間も惜しいほど面白い」と開高健氏が絶賛した、ドイツのスパイ小説である。
 ユーモアがたっぷりと詰まっていて、それでいて息もつかせぬ冒険が続く。さらには人間賛歌が高らかに謳われ、読後の心に暖かい潮が満ちてくるような小説なのだ。私は実際、トイレに行く際にも持ち込んで読み続けたものだ。
 さて、当ブログのことである。
 この6月で、ついに5年目突入と相成った。
 よくここまで続いたなァと、自分でも感心する。
(ネタが切れなくてヨカッター!)
 と、幸運を噛みしめる。
 これも読者諸賢のみなさんが応援してくださったおかげなのである。感謝多謝であります。
 さ、その記念すべき本記事は、前述した小説に出てくるコンビーフ料理を作ってみたいと思う。
 その名も『魔法のコーンビーフ』であります。




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紙で巻いてあるだけのパッケージ
分別がラクでリサイクルしやすい
缶詰業界も低炭素時代に突入である








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やっ、巻取部分が千切れてしまった
これは初めての経験である
しかし、我恐れるまじ








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 道具さえあれば、こういった事態は解決するんであります。
 もはや何者も開缶作業を妨げることは不可能であろう。
 しかし金属片が混入しないように、細心の注意を払って開缶したのであった。




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タマネギの輪切りはなぜか楽しい
包丁はようっく研いでおきましょう








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じゃがいも3個分の皮を剥いて...








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なるべく細く千切りにする
スライサーみたいのがあるとラク








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 タマネギはバターでじっくりと炒める。
 今年の3月から、バターは非常に入手困難であります。生乳生産量の調整失敗と、穀物飼料の高騰が原因なんであります。
 そんな折りもおり、こうしてバターを使った料理はいかがなものか。
 しかも分量大さじ2くらいの量を使用するのは、いかがなものか。
 しかし、本日は記念すべき5年目突入の日なのだ。普段はそんなにバターを使わないんだし、よしとする。




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透き通ったタマネギにコンビーフを投入
タマネギが茶色に染まっていく
昔の曲で「あなた色に染められ...」ってのがあったっけ







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別のフライパンでオリーブオイルを熱し、
じゃがいも半量を入れて広げる








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その上にタマネギ&コンビーフを投入
この辺、小説のレシピとは異なる
ガレットという料理をミックスしたのだ







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 残りのじゃがいもを上に広げて、程よく焦げ目がつくまで焼いてからひっくり返す。
 フライパンを2つ重ね合わせて、うまいこと返そうとしたのだけれど...。




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 失敗して、中身をこぼしてしまった。
 心うきうきと作業していたのが一転、暗澹たる気持ちがこみあげてきた。
 いつしか涙もボーダと流れる。
 折しも、外では沛然たる雨が降り出した。
 なんとかせねばなるまい。40歳過ぎた大人が「料理がこぼれたので泣きました」ではイケナイ(当たり前だけど)。




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 かくのごとし。
 最後はオーブンで焼いて事なきを得た。
 ところで小説のオリジナルレシピだと、じゃがいもはピュレーにして使うことになっている。
 しかし筆者は細切りのじゃがいもが好きなんであります。だからその部分だけ、変更させていただきました。
 では、失敬して一口...。
 おう、思いのほか甘い。ゆっくりとバターで炒めたたまねぎの甘さが、相当に利いている。
 その甘みをまとったコンビーフ&じゃがいものゴールデンコンビ。不味かろうはずがない。
 味付けはコショウとローズマリーのみ。コンビーフがかなり塩辛いので塩は不要でありました。

 というわけで、読者諸賢よ。これからも缶詰blogをヨロシクヨロシクなのだ!




 内容量:340g
 原材料名:牛肉、食塩、砂糖、発色剤(亜硫酸Na)
 原産国:ブラジル
(経営再建中のハナマサの缶詰を使用しました。ハナマサ本部よ、がんばれよー!)




缶詰のある風景『二つのこころのある川』続編

2007-12-03 12:42:51 | 連載もの 缶詰のある風景

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 コーヒーの沸くあいだに、ニックは杏の小さな缶詰を開けた。彼は缶詰を開けるのが好きだった。ブリキのコップに、シロップごと、中身をすべて開けた。火の上のコーヒーを見守りながら、彼は杏のシロップを飲んだ。最初はこぼさぬように注意深くシロップをすすり、そのあとは黙想にふけりながら杏を口に入れたのだ。杏は、生のものよりも味が良かった。
アーネスト・ヘミングウェイ『二つのこころのある川』訳/はやと

 この『缶詰のある風景』シリーズでありますが、どうもこの、ヘミングウェイからの出典が多いようであります。
 それは筆者がヘミングウェイを好きだからでもあるし、またキャンピングで缶詰を開けるシーンがよく登場するからでもあります。
 さて、このシーン。
 我が缶詰さんが、実にいい脇役を演じているとは思いませんか。
 夜のしじまに、焚き火のかたわらで開ける缶詰は、意外にもこんなシラップ漬けのフルーツ缶が合うんです。
 晩秋の書斎で、孤影悄然とサンマ缶をつつくのも捨てがたい魅力だけれど、何といっても缶詰さんの活躍する場所はキャンプなんであります。
 丸太や草の上にポンと置かれたその姿からは、缶詰たちの喜びの声が聞こえてくるようです。




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 なーんて書いておいて、本日も室内なんであります。
 ニックのようにわくわくしながら開けてみると、なんとも愛らしい杏ちゃんがずらりとこっちを見上げております。




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 こやつを、ぽちゃりぽちゃりと牛乳に投入。
 あっ、牛乳があとのほうが良かったですな。





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 ついでにヨーグルトも投入。
 中身が少なくなって、汁が多くなったところを使うとモアベターであります。





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 そしてマシーンで高速かき混ぜの儀。
 最近、我が家にはこのフードプロセッサーみたいのが登場したんであります。
 いろんなことが短時間にできて、ともかく便利。





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 かくのごとし。
 屋内で杏缶を食べても芸がないので、スムージーというやつを作成したんであります。
 おそらく、ニックの時代にはこんなものはなかったでありましょう。
 では、失敬して一口。
 やっ。意外と甘みが感じられない。
 シラップを追加してから再び高速かき混ぜの儀。今度はうまくいきました。
 杏のかほりと、ヘビーシラップの甘み。そこにヨーグルトの酸味と牛乳のコクが加わって、なかなか美味い飲み物であります。
 あらためて、缶詰から杏を拾い上げて口中へ。
 ニックのいう「生のものよりも味が良かった」という表現は、少し分かるような気もする。
 しかし、やはりこいつはキャンプで食べた方が美味いようであります。次回はぜひとも、風に吹かれながらシラップをすするんであります。




 固形量:240g
 内容総量:420g
 原材料名:あんず、砂糖、塩化カルシウム
 原産国:南アフリカ(S&W)