缶詰blog

世界中の缶詰を食べまくるぞ!

缶詰のある風景『最後のよき土地』

2007-08-22 13:03:17 | 連載もの 缶詰のある風景

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 鱒を食べ終わると、骨を火の中に入れ、今度はベーコンをもう一切れのパンに挟んで食べた。それからリトリスはコンデンス・ミルクを入れた薄い紅茶を飲み、ニックはミルクの罐に開けた穴に二本の細長い木片で栓をした。
「充分食べたかい?」
「うん、たくさん食べた」
 アーネスト・ヘミングウェイ『最後のよき土地』訳/谷阿休 朔風社


 これは主人公のニック少年が、妹のリトリスと冒険に出かける小説であります。
 キャンピングの描写が素晴らしく、何度読んでもわくわくする傑作であります。
 ところで、ニック少年は、この『缶詰のある風景』シリーズでは二回目の登場となるのだ。
 興味と時間のある御仁は、過去記事の缶詰のある風景『二つのこころのある川』もご覧になられたし。





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 昨今は、缶入りのコンデンス・ミルクなぞ、なかなかお目にかかれないのだが。
 そうそう。こうやって、穴を二つ、両端に開けたものだったなあ。
 一つは無論、空気穴である。これを開けないと、大気圧のせいで中身が出てこないのだゾ。





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 かくのごとし。
 小さい穴から、粘度の高い液体が出てくるさまは、なぜか快感をともなっている。
 滴り落ちて広がる波紋も、あくまでもたおやかに、ゆったりと広がっていく。
 一斗缶から塗料を注いだりする作業も、ワタクシは好きなんであります。





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 で、こうしてニック少年の物語通りに、木片で栓をしたわけであるが...。
 肝心のミルクを、ぺろりと舐めてみると、ちっとも甘くないのであります。
 幼い頃、かき氷にエバミルクをかけ回して、最後に罐をぺろりとやった時の、あの甘さが皆無なんであります。
 そこで、あらためて缶詰さんを眺めてみると。
“無糖れん乳”だそうです。
 そんな商品があるなんて、聞いてないよう。

 この甘くないミルク、どうしよう?




 内容量:170g
 原材料名:生乳
 原産国:日本・北海道




缶詰のある風景『蘇える金狼』

2006-08-09 10:57:24 | 連載もの 缶詰のある風景

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 朝倉がハム・ステーキを注文するとすぐ眼の前で作ってくれた。フライパンから跳ねた脂に火がついて、炎が高くのぼる。
~中略~「お待ちどうさま」
 マスターは焼きたてのステーキにバターの塊りを乗せて、朝倉のカウンターの前に置いた。旺盛な食欲でそれを胃に送りこみながら、朝倉は札束でふくらんだスーツ・ケースのことを考えていた

大藪晴彦『蘇える金狼 野望編 (1)』
価格:¥ 735(税込)
発売日:1974-03

 私には奇妙な癖がある。
 体調や精神状態が弱っているときには、大藪晴彦の小説を何冊も読み続けることがあるのだ。
 作品のヒーローからエネルギーを分けてもらうためではない。荒唐無稽な文章を、頭の中に流したいだけなのだ。その様子を例えると、電光掲示板のデジタル文字が、次々と流れ去っていく様にそっくりである。


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巻取鍵が巨大だ

 ということで、今回の缶詰さんはハム缶である。それも、東欧はポーランドからいらした缶詰さん。
 ブログ仲間のNoritanさんが、出張のお土産を下さったのである。以下は彼からのメールを抜粋したもの。

 こんにちは。ドイツ、ポーランド出張から帰ってきました。
 あとで気づいてみれば「あれ、これは禁輸品じゃん」というおみやげがあるのですが、いかがですか。

 法規を超越したこのご厚意、大藪晴彦の小説に最もふさわしいもの、と言わねばならないだろう。
 ありがたいことです。


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 おっ、なんてことだ。巻取鍵を操作したとたん、美味そうな肉汁がぴゅるると飛び出したではないか。それも、とめどなく溢れてくる。
「とりあえず...」
 と、沖田浩之の台詞をマネして写真を撮っておく。
 汁の匂いを嗅ぐと、上質な豚肉のかほりがする。


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 かくのごとし。どーん、と455gのボリュームである。
 この存在感。圧倒的な食べ応えの予感。
 胸の奥が熱くなった。
 巨大な肉は人を感動させる。
 あまつさえ、
「ざまみろ、どうだどうだ!」と泣きそうになってしまう。
 なぜここで「ざまみろ」なのか、不明ではあるが。
 ナイフでさっくりと切りとり、口中へ...。
 これはこれは上等なロースハムである。歯ごたえのあるところ、柔らかく崩れるところと、肉の噛みごたえが素晴らしい。
 塩分はかなり強い。醤油などをかけなくとも、充分に飯のおかずとなってくれそうだ。
 悲しい動乱の歴史を持つ国は、おかずの味付けが濃いのかもしれない(この理論間違ってないカナ)。少量のおかずで、飯をたっぷりとかきこむのかもしれない(ポーランドってご飯食べるのカナ)。

 残りの肉は迷わずフライパンへ。バターとからまって焦げたところが、実に美味であった。


 原材料名:豚肉(のはず)
 内容量:455g(これは確かだ)
 原産国:ポーランド(表記がまったく読めません)

   

缶詰のある風景 『ユーコン漂流』

2006-06-08 12:26:58 | 連載もの 缶詰のある風景
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 カヌーに積んだ缶詰は水浸しになって波にもまれ、みんなラベルがとれてしまった。食事の時、缶を開けるまで、中身が何であるか判らない。ベーコンだろうと見当をつけて開けると豆が出てきたりして、これは激流を行くよりスリルがあった。
 野田知佑『ユーコン漂流』 文春文庫


 我が缶詰さんたちに最も似合う風景というのは、やはり野外である。それも“荒野”とか“海上”という、出来るだけ荒っぽい風景。
 開けた缶詰は、皿によそったりせずに、缶から直に食う。手を休めて置くときも、草の上とか木の上に、直に置く。

 粗野。無骨。率直。虚飾を知らず、澄明。

 嗚呼、我が缶詰さん瓶詰さんこそ、くだらないグルメブームに真っ向から立ち向かう戦士たちなのである。

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 前回の『さんま塩焼』に引き続き、今回もニッスイ。『さば照焼』である。
 美味そうな調理見本の写真が印刷されていて、色合いもブルー主体で爽やか。我が国の缶詰さんは、パッケージも良く出来ているなと思わせるのである。
 一方、海外の缶詰さんは、ラベルが紙製であることが多い。冒頭でご紹介させていただいた、カヌーイスト野田知佑氏の経験したようなことは、しょっちゅう起こりうることだ。
 同様のことが、別の冒険家の手によって書かれている。そちらもここで、ぜひご紹介させていただきたい。

 この紙のレッテルは、ぬれたとたんにはげてしまうし~中略~どの罐詰も見分けがつかなくなり、肉罐一つがほしいのに、ロシヤ・ルーレットよろしく大騒ぎをやらかす羽目になる。
 R・ノックス=ジョンストン『スハイリ号の孤独な冒険』草思社

 
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 そうして、今回の『さば照焼』であるが。
 なんとも凡庸な味なのである。食感が、焼き魚というよりも水煮に近い。
『さんま塩焼』が素晴らしかったので、過剰な期待をもって臨んだ姿勢がいけなかったのかも知れぬ。

「ふっくらとしていない...」咀嚼しつつ、追求する。
「骨は固めか。そこは水煮と違うな」細かく分析する。
「タレも平凡ではないか」くどくど言い続ける。

 ここで私は、はっと気づくのである。
 これでは私もグルメ野郎ではなひか。

 嗚呼、読者諸賢よ。荒野は遙か遠いなあ。


 原材料名:さば、砂糖、醤油、みりん、清酒、食塩、増粘剤(グァー)、調味料(アミノ酸)、(原材料の一部に小麦粉を含む)
 固形量:70g
 内容総量:100g


新春・パンの缶詰

2006-01-08 19:15:05 | 連載もの 缶詰のある風景

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 小屋に座りこんで、床に敷いたバナナの葉の上にその大きな実を五つ並べ、子細に見た。ブレッドフルート、つまりパンの実だ(中略)。
 湯気が立ち、一種のうまそうな、どちらかといえば焼き芋に近い匂いが昇った。パンの味を期待する気持ちはその時にはもうほとんど消えていた。
 池澤夏樹『夏の朝の成層圏』 中央公論社

 
 明けましておめでとうございます。缶詰ブログの迎える、二回目の年明けでこざいます。
 最初の記事はシリーズ『缶詰のある風景』なのだ。無人島に漂着した男がパンの実を発見し、
「果たして本当にパンの味がするのだろうか...」
と期待を抱きつつ焼いてみたシーンである。台詞にあるように、パンの味などまったくしないことが分かるのだが、それはそれで貴重な食料となる。
 池澤夏樹らしい、澄明で淡々とした文体でサバイバルを語るのだから、なかなかに面白い小説である。

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 そしてこちらはパンの缶詰さん。以前、防災関連のテレビ番組を観ていたときに登場したもので(缶詰さんは保存食なのだ)、それ以来強い興味を抱いていたのである。それを先日、ようやく発見したのだ。
 パカリと開けると、イースト菌の発酵した心地良い匂いが立ち昇った。紙にくるまれた本体をずるずると引き出すと、割としっかりとした円柱状のパンが出てきた。

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 かくのごとし。これはバナナクリーム味という商品だが、他にはいちご味、チョコ味もあったと思う。
 小さく切り分けて、がぶっと一口。もくもくもく、もくもく(という食感)...ごっくん。
 おおう、飲み込んだあとから、バナナの香りが鼻から抜けていく。何とも上品な淡い香り付けである。お味の方も甘さ控えめで、咀嚼が進むほど旨味が口中に広がるという具合。美味いです、これ。実が詰まっているので、充分に1食分はあると思う。
 上記小説の主人公も、こんな缶詰があれば面白かったろう。何しろパンの缶詰なのである。いやはや、我が国の食品加工技術というのはすごいなぁ。


内容量:100g
原材料名:小麦粉、砂糖、油脂(大豆使用)、酵母菌、乳酸菌、卵、食塩、ビタミンC、バナナクリーム(保存料ソルビン酸K・増粘多糖類・着色料クチナシ・カロチン・カゼインNa・リン酸Na・香料)
原産国:じゃぱーん!  


缶詰のある風景『過去からの弔鐘』

2005-11-15 16:38:23 | 連載もの 缶詰のある風景

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「~ウェンディは料理はうまかったかね?」
「ウェンディが? いや、私の知るかぎりではそういうことはないな。もっとも大学にいるときに料理に興味を持ったかもしれないが(中略)。家に一緒に住んでいるときは、あの子は、ピーナッツ・バターとジャムのサンドウィッチ以上に手の込んだものは、つくった試しがないよ。でもなぜ?」
「いや、別に」
 ローレンス・ブロック『過去からの弔鐘』訳/田口俊樹 二見書房

 寒くなってくると、暗めのトーンのミステリーなどが読みたくなるものだ。これは80年代のニューヨークを舞台にした探偵もの。
 我々日本人が思い浮かべる80年代は、明るく輝いていた時代だ。しかし当時の米国は、不景気の真っ只中であった。ニューヨークの都市部も、今では想像出来ないほどに犯罪発生率が高かった。
 さて、欧米ではパンに何かを塗りつけただけの極めて簡略なサンドウィッチ(と呼べるのだろうか)を食事に当てることが多いらしい。今回の瓶詰めさん『ヌテッラ』も、そんな塗りものの一つである。


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 かくのごとし。チョコレートクリーム・ヘーゼルナッツ入りというシロモノだ。こんなものを食べるのは実に久しぶりである。期待を込めてがぶっと一口...。


(-_-)


 甘いよ甘いよ甘すぎる。喉が痛くなるほど甘いではないか。おまけにべたべたしてるから、なかなか喉を通らない。
 この瓶詰めさんは、長らくイタリアで暮らしていた友人から教えてもらったものなのだが、イタリア(フィレンツェ)ではこうしてヌテッラを塗りたくったパンを朝食とする家庭が多いらしいのだ。スーパーに行くと、この大瓶がどーんと並んでいるというのである。
 一寸考えてから、ヌテッラの塗布量を減らしてバターを重ねてみた。するとべたべたが緩和されて、ずいぶん食べやすくなった。お味のほうもぐっとランクアップである。甘さを控えようとして、単純にヌテッラを少量塗っただけでは、何だかビンボーくさいものになる。

 ちなみにラベルには
「温めた牛乳に溶かしてチョコレートドリンクとして~」
とあった。これからの季節、そっちのほうがありがたいようだ。


内容量:400g
原材料名:砂糖、植物油脂(ピーナッツ油)、ヘーゼルナッツ、脱脂粉乳、ココア、乳化剤(大豆由来)、バニラ香料
原産国:オーストラリア(え?)