世界7500万人のユーザーを誇る無料通話・メッセンジャーアプリの「LINE」が新たなステージに入る。これまでLINEは、商用利用を一部の大企業やブランドなどに限り認めていたが、12月上旬からほぼすべての企業・団体が利用できる新たな商用アカウントを開始する。さらに来年初頭にはリアル店舗でためたり使えたりするポイントサービスも開始する計画。「オンライン・ツー・オフライン(O2O)」のインフラを狙う新戦略を追った。(文中敬称略)
「正直、我々自身も震えています」――。
NHN Japan(東京・渋谷)でLINE事業を統括する執行役員の舛田淳は、一通り話し終わってからこう本音を漏らした。無料通話・メッセンジャーアプリ市場に相次ぎ参入してくる競合のことではない。今冬から来年にかけ、まずは国内向けに始める自らの一大事業のことだ。
これからの競合は「ツイッター」などの公式アカウントであり、「ホットペッパー」などの情報サービスであり、「Tポイント」などのポイントサービスになる。あらゆる商店、企業、団体と個人とをつなぐオンライン・ツー・オフライン(O2O)のインフラを狙う。その覚悟を固めたが、規模がどれだけ膨らみ、どれだけ業務が増えるか想定もつかない。
だから今、NHN社内は緊張でふるえている、というのだ。
■商用利用、月額5250円から。公共団体は無料
12月上旬から始める「LINE@」のイメージ
12月上旬、一部の大企業や著名ブランド、著名人などに限っていたLINEの商用利用を、ネット専業以外の企業や団体に解禁する。国内3500万人の個人とつながる商用アカウント「LINE@(ラインアット)」を開始、企業・団体からの申し込み受け付けを始める。
アカウントの種類は、飲食・アパレル・美容・宿泊施設などの実店舗を対象とした「ローカルアカウント」、新聞・テレビ・ラジオ・雑誌などを対象とした「メディアアカウント」、官公庁・地方公共団体・学校・教育団体などを対象とした「パブリックアカウント」の3種類。
企業の場合5250円の初期費用と同額の月額利用料がかかるが、最初の3カ月の月額利用料は無料。いずれもオンラインのみの店舗やサービス、メディアは対象とせず、リアルでの活動が条件だ。「フォロワー」数の上限は1万人とするが、フォロワーへのメッセージの配信数に上限は設けない。パブリックアカウントは月額利用料がかからず、フォロワー数の上限もない。
■公式アカウントで証明した「三方よし」
一見、無料で利用できるツイッターの公式アカウントと似ているが、実は異なるものだ。今年6月から一部の「ナショナルクライアント」向けに開始した「公式アカウント」での成功体験が、今回の新戦略を促した。舛田は、こう語る。
例えば、舛田がよく引き合いに出すローソンのフォロワー数は、今年6月のアカウント開設からわずか数日で100万人を突破。8月、アカウントをフォローするともらえる「ローソンクルーあきこちゃん」のオリジナルスタンプを無料で配布すると、また一気に100万人以上が上乗せされた。11月19日時点のフォロワー数は約425万人に達する。
月額150万円に加え、無料スタンプ配布は1000万円もかかるが、ローソンの担当者、広告販促企画部の白井明子は、「数百万人を獲得するための広告宣伝費や販売促進費に換算すれば、十分にペイできている」と満足げだ。メディア力もすごいが、クーポンの効果もすごい。
7月、「Lチキ(128円)」の半額クーポンを先着150万人のフォロワーに配信したところ、約10万人が店頭で使用した。「通常、クーポン行使率はよくて3%」(白井氏)だが、LINEでは7~8%と高い反応。高校の近くや大学内にあるローソンに、ちょっとした騒ぎになるほど客が押し寄せたため、9月、10月と実施したクーポンは先着10万人にとどめたほどだ。
公式アカウントのメッセージは、ツイッターやフェイスブックページなどの更新とは違い、スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)に「プッシュ通知」され目立つ。さらにLINEユーザーは友人とのやりとりのため頻繁にLINEを見る。月に1回以上使うアクティブ率は驚異の86%。1日に1回以上使う率も50%と高く、国内では1700万人以上が毎日触れている計算。だからこその恩恵を企業が受けられることを、ローソンなどの取り組みは示した。
■公式アカウントとの違いは?
こうしたLINE販促の評判はメディアなどを通じて広まり、公式アカウント待ちの行列ができるようになった。一方で、公式アカウントの料金は10月から、配信できる情報量を増やしたうえで4週間800万円と値上がりし、大企業以外は使いにくいという不満も広がりつつあった。
ただこれはつかの間の出来事。水面下では、課題を一気に解決する新たな公式アカウント、LINE@ 今後は、公式アカウントは大企業、政府向け、LINE@は中堅・中小企業、および公共団体向け、という切り分けで運用される。機能はほぼ同じだが、前者はLINE内の公式アカウント一覧に掲載されるため一気にフォロワーを獲得しやすく、フォロワー数の上限を気にする必要もない。一方、後者は店舗や自前のウェブサイトなどを通じ、自力でフォロワーを増やしていく必要があるが、飲食店などはフォロワーがリアルの顧客に収れんされ、逆に効果的ともいえる。
■無料も検討、あえての有料化
LINE@の申し込みページ。19日にオープンした
月額5250円としたのも、効果を高めるための施策。当初はツイッターなどと同じく、誰でも無料で開設できることも検討したが、やめた。舛田はその理由を「無料にするとアカウントのメンテナンスがおろそかになったり、『スパム』行為をするアカウントが増え、場が荒れたりする懸念がある。有料であれば丁寧になるはずだし、スパムも排除できる」と話す。
目標は「全国津々浦々」(舛田)。ネット専業ではないか、公序良俗に反さないか、18歳未満禁止の業種ではないかといった簡便な審査を通れば、申し込みから数日で開設される見込み。数が増えれば、電話帳のような検索ページを設けることも検討する。「もともとLINEを開発したネイバーは検索サービスの会社。そんなものはすぐにできます」(同)。
果たして月額5250円に中堅・中小企業や商店主は乗るのか。その可能性は高い。
国内での月間利用者数は、フェイスブックが1500万人以上(9月時点、フェイスブック公表)、ツイッターが2000万人以上(10月、調査会社推測)。対するLINEは2900万人(11月、NHN公表)とすでに最大のメディアで、まだまだ膨張している。登録アカウント数でいえば国民の4分の1以上がLINEユーザー。顧客とつながる選択肢として最有力といえる。
さらにLINEが来春以降に導入を決めているポイントサービスが、販促活用の決定打となる公算が大きい。その名は「LINEマイレージ(仮)」である。
■O2Oを促す「LINEマイレージ」
「LINE@の想定される主な活用法はクーポン発行による集客。ただ、一過性に終わらないよう、LINEとしても支援する必要がある。ということで、LINE@を通じた販売にポイントを付与するマイレージサービスも用意しましょうと決めました。LINE@加盟店の商店街で共通利用できるようなイメージです」
舛田はさらりというが、じつはかなり大がかりな話。加盟店がユーザーにポイントを付与する仕組み、中央でポイントを管理する仕組み、ユーザーが各加盟店でポイントを行使できる仕組みを整備しなくてはならない。これを来春までにやってのけるというのだ。舛田は続ける。
を準備していたから、じつにしたたかである。
「やるからには重たいシステムにすべきではない。特に飲食店は回転が速く、業務の負荷を考えると煩雑なシステムは無理。店舗もユーザーもスマホさえ持っていれば完結できるような仕組みを考えています。大変だということは分かっている。どうなることやらと思うけれども、こうしたO2Oのエコシステムを実現させるんだという覚悟は決めた。できるのは我々だけです」
狙いはあくまでO2O。当初は、LINEクーポンなどでためたポイントは、LINE@加盟店で消費する循環を描く。ただし、将来は「LINEマイレージと、LINE上で使える仮想通貨『LINEコイン』との交換や、有料スタンプとの交換なども考えられる。それは自分たちの問題なので、やろうと思えばすぐにできます」(舛田)。
■シェアボタン、モニター組織化など攻勢
12月中にリリースする予定のシェアボタン「LINEで送る」のイメージ
LINEの攻勢は続く。年内に、フェイスブックの「いいね!」と同じようなシェアボタンを、誰でも簡単に設置できる機能をリリースする。ユーザーはスマホで見かけた「LINEで送る」ボタンを押し、送りたい友だちを指定すれば簡単にシェアできる。同様にLINE@のアカウントを簡単にフォローできるようなボタンも順次、リリースされると見られる。
もともとLINEは親しい友人同士のおしゃべりツール。不特定多数に情報をシェアする拡散性がないため、シェアボタンを見送っていたが、「ものすごい量のリクエストをもらっていた」(舛田)。一般的な情報拡散のほか、ネット通販の商品やLINE@のクーポンを紹介するといった用途も想定しているという。
さらに11月22日からは「LINEサポーターズ」の募集も開始する。これはLINEの改善や機能追加に協力してくれる一般モニターの組織化で、インタビューやモニターテストを、地域や属性別に細かく実施するためのもの。都度、交通費などの謝礼を検討する。「1万人、10万人の単位で、ユーザーの皆さんに半スタッフになってもらう」(同)という試みだ。
■「デジタルクーポン」と「リアルのポイント」の融合
ネット大手が続々参入する中、追われるLINEは別のステージへと移った。特に、LINE@とLINEマイレージは、舛田いわく「我々としても、LINEを出した時以来の大きなチャレンジ」。実現すれば、既存流通やリアル経済を大きく変える可能性を秘める。
携帯電話が備える音声通話やメールの代替として、すでに3500万人がLINEを活用しており、国民的な情報インフラになりつつある。企業側、ユーザー側双方にとって敷居は低い。ネット上のクーポンサービスと、リアル店舗のポイントサービスが融合するのは、事実上、LINEが初めてで、O2Oが加速するカンフル剤になり得る。
専用端末がない分、加盟店開拓は容易で、利用者側もクーポンを得てから購入、ポイント付与の一連の流れがスマホ1台で事足りる。いちいちカードを提示する必要はない。ここからは想像だが、リアル店舗の決済で「今ならLINEマイレージ5%」といったプロモーションが可能になれば、既存の大手ポイントサービスにとって痛手になるだろう。
何よりLINEは日本製。それだけで日本企業にとっての敷居は下がる。「LINEは日本の会社が日本で開発していて、契約書は日本語ですし、日本語で話もできる」。そう舛田がいつも強調するように、ツイッターやフェイスブックといった“外来種”と比べて手厚い日本語サポートと日本市場優先の姿勢が、日本企業の商用利用を加速させそうだ。
■「イノベーションのジレンマ」の一方で……
NHNJapan舛田淳執行役員。越したばかりの東京・渋谷「ヒカリエ」の真新しいオフィスロビーでは、スタンプの巨大なぬいぐるみが迎えてくれる
「この1年半で、日本ナンバーワンのアクティブユーザーに助けていただいている状況を生み出すことができた。そこが財産でストロングポイントです。だからこそ、いろんなことを仕掛けていける」。舛田はこう話す。
ツイッターや大手ポイントサービスを想定して「ライバルは?」と聞くと、意外にも「タウンページでしょうか」という答え。すべての企業、ショップ、公共団体が必ずアカウントを持ち、LINEを通じて消費者とつながる世界を目指している証左だ。かつてタウンノートが顧客誘導のための広告媒体だったように、LINEはアカウント維持費の名目で収益を得ていく。
スマホというイノベーションは、携帯電話会社から通話やメールといったコミュニケーションの根幹を奪いつつあると同時に、「iモード」など人が集まるメディア機能も奪いつつある。「イノベーションのジレンマ」に陥った携帯電話会社は、「土管屋」の色合いが濃くなるばかり。一方でLINEは世界7500万人、国内3500万人の“しゃべり場”を武器に独走を続けている。
(電子報道部 井上理)
「正直、我々自身も震えています」――。
NHN Japan(東京・渋谷)でLINE事業を統括する執行役員の舛田淳は、一通り話し終わってからこう本音を漏らした。無料通話・メッセンジャーアプリ市場に相次ぎ参入してくる競合のことではない。今冬から来年にかけ、まずは国内向けに始める自らの一大事業のことだ。
これからの競合は「ツイッター」などの公式アカウントであり、「ホットペッパー」などの情報サービスであり、「Tポイント」などのポイントサービスになる。あらゆる商店、企業、団体と個人とをつなぐオンライン・ツー・オフライン(O2O)のインフラを狙う。その覚悟を固めたが、規模がどれだけ膨らみ、どれだけ業務が増えるか想定もつかない。
だから今、NHN社内は緊張でふるえている、というのだ。
■商用利用、月額5250円から。公共団体は無料
12月上旬から始める「LINE@」のイメージ
12月上旬、一部の大企業や著名ブランド、著名人などに限っていたLINEの商用利用を、ネット専業以外の企業や団体に解禁する。国内3500万人の個人とつながる商用アカウント「LINE@(ラインアット)」を開始、企業・団体からの申し込み受け付けを始める。
アカウントの種類は、飲食・アパレル・美容・宿泊施設などの実店舗を対象とした「ローカルアカウント」、新聞・テレビ・ラジオ・雑誌などを対象とした「メディアアカウント」、官公庁・地方公共団体・学校・教育団体などを対象とした「パブリックアカウント」の3種類。
企業の場合5250円の初期費用と同額の月額利用料がかかるが、最初の3カ月の月額利用料は無料。いずれもオンラインのみの店舗やサービス、メディアは対象とせず、リアルでの活動が条件だ。「フォロワー」数の上限は1万人とするが、フォロワーへのメッセージの配信数に上限は設けない。パブリックアカウントは月額利用料がかからず、フォロワー数の上限もない。
■公式アカウントで証明した「三方よし」
一見、無料で利用できるツイッターの公式アカウントと似ているが、実は異なるものだ。今年6月から一部の「ナショナルクライアント」向けに開始した「公式アカウント」での成功体験が、今回の新戦略を促した。舛田は、こう語る。
例えば、舛田がよく引き合いに出すローソンのフォロワー数は、今年6月のアカウント開設からわずか数日で100万人を突破。8月、アカウントをフォローするともらえる「ローソンクルーあきこちゃん」のオリジナルスタンプを無料で配布すると、また一気に100万人以上が上乗せされた。11月19日時点のフォロワー数は約425万人に達する。
月額150万円に加え、無料スタンプ配布は1000万円もかかるが、ローソンの担当者、広告販促企画部の白井明子は、「数百万人を獲得するための広告宣伝費や販売促進費に換算すれば、十分にペイできている」と満足げだ。メディア力もすごいが、クーポンの効果もすごい。
7月、「Lチキ(128円)」の半額クーポンを先着150万人のフォロワーに配信したところ、約10万人が店頭で使用した。「通常、クーポン行使率はよくて3%」(白井氏)だが、LINEでは7~8%と高い反応。高校の近くや大学内にあるローソンに、ちょっとした騒ぎになるほど客が押し寄せたため、9月、10月と実施したクーポンは先着10万人にとどめたほどだ。
公式アカウントのメッセージは、ツイッターやフェイスブックページなどの更新とは違い、スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)に「プッシュ通知」され目立つ。さらにLINEユーザーは友人とのやりとりのため頻繁にLINEを見る。月に1回以上使うアクティブ率は驚異の86%。1日に1回以上使う率も50%と高く、国内では1700万人以上が毎日触れている計算。だからこその恩恵を企業が受けられることを、ローソンなどの取り組みは示した。
■公式アカウントとの違いは?
こうしたLINE販促の評判はメディアなどを通じて広まり、公式アカウント待ちの行列ができるようになった。一方で、公式アカウントの料金は10月から、配信できる情報量を増やしたうえで4週間800万円と値上がりし、大企業以外は使いにくいという不満も広がりつつあった。
ただこれはつかの間の出来事。水面下では、課題を一気に解決する新たな公式アカウント、LINE@ 今後は、公式アカウントは大企業、政府向け、LINE@は中堅・中小企業、および公共団体向け、という切り分けで運用される。機能はほぼ同じだが、前者はLINE内の公式アカウント一覧に掲載されるため一気にフォロワーを獲得しやすく、フォロワー数の上限を気にする必要もない。一方、後者は店舗や自前のウェブサイトなどを通じ、自力でフォロワーを増やしていく必要があるが、飲食店などはフォロワーがリアルの顧客に収れんされ、逆に効果的ともいえる。
■無料も検討、あえての有料化
LINE@の申し込みページ。19日にオープンした
月額5250円としたのも、効果を高めるための施策。当初はツイッターなどと同じく、誰でも無料で開設できることも検討したが、やめた。舛田はその理由を「無料にするとアカウントのメンテナンスがおろそかになったり、『スパム』行為をするアカウントが増え、場が荒れたりする懸念がある。有料であれば丁寧になるはずだし、スパムも排除できる」と話す。
目標は「全国津々浦々」(舛田)。ネット専業ではないか、公序良俗に反さないか、18歳未満禁止の業種ではないかといった簡便な審査を通れば、申し込みから数日で開設される見込み。数が増えれば、電話帳のような検索ページを設けることも検討する。「もともとLINEを開発したネイバーは検索サービスの会社。そんなものはすぐにできます」(同)。
果たして月額5250円に中堅・中小企業や商店主は乗るのか。その可能性は高い。
国内での月間利用者数は、フェイスブックが1500万人以上(9月時点、フェイスブック公表)、ツイッターが2000万人以上(10月、調査会社推測)。対するLINEは2900万人(11月、NHN公表)とすでに最大のメディアで、まだまだ膨張している。登録アカウント数でいえば国民の4分の1以上がLINEユーザー。顧客とつながる選択肢として最有力といえる。
さらにLINEが来春以降に導入を決めているポイントサービスが、販促活用の決定打となる公算が大きい。その名は「LINEマイレージ(仮)」である。
■O2Oを促す「LINEマイレージ」
「LINE@の想定される主な活用法はクーポン発行による集客。ただ、一過性に終わらないよう、LINEとしても支援する必要がある。ということで、LINE@を通じた販売にポイントを付与するマイレージサービスも用意しましょうと決めました。LINE@加盟店の商店街で共通利用できるようなイメージです」
舛田はさらりというが、じつはかなり大がかりな話。加盟店がユーザーにポイントを付与する仕組み、中央でポイントを管理する仕組み、ユーザーが各加盟店でポイントを行使できる仕組みを整備しなくてはならない。これを来春までにやってのけるというのだ。舛田は続ける。
を準備していたから、じつにしたたかである。
「やるからには重たいシステムにすべきではない。特に飲食店は回転が速く、業務の負荷を考えると煩雑なシステムは無理。店舗もユーザーもスマホさえ持っていれば完結できるような仕組みを考えています。大変だということは分かっている。どうなることやらと思うけれども、こうしたO2Oのエコシステムを実現させるんだという覚悟は決めた。できるのは我々だけです」
狙いはあくまでO2O。当初は、LINEクーポンなどでためたポイントは、LINE@加盟店で消費する循環を描く。ただし、将来は「LINEマイレージと、LINE上で使える仮想通貨『LINEコイン』との交換や、有料スタンプとの交換なども考えられる。それは自分たちの問題なので、やろうと思えばすぐにできます」(舛田)。
■シェアボタン、モニター組織化など攻勢
12月中にリリースする予定のシェアボタン「LINEで送る」のイメージ
LINEの攻勢は続く。年内に、フェイスブックの「いいね!」と同じようなシェアボタンを、誰でも簡単に設置できる機能をリリースする。ユーザーはスマホで見かけた「LINEで送る」ボタンを押し、送りたい友だちを指定すれば簡単にシェアできる。同様にLINE@のアカウントを簡単にフォローできるようなボタンも順次、リリースされると見られる。
もともとLINEは親しい友人同士のおしゃべりツール。不特定多数に情報をシェアする拡散性がないため、シェアボタンを見送っていたが、「ものすごい量のリクエストをもらっていた」(舛田)。一般的な情報拡散のほか、ネット通販の商品やLINE@のクーポンを紹介するといった用途も想定しているという。
さらに11月22日からは「LINEサポーターズ」の募集も開始する。これはLINEの改善や機能追加に協力してくれる一般モニターの組織化で、インタビューやモニターテストを、地域や属性別に細かく実施するためのもの。都度、交通費などの謝礼を検討する。「1万人、10万人の単位で、ユーザーの皆さんに半スタッフになってもらう」(同)という試みだ。
■「デジタルクーポン」と「リアルのポイント」の融合
ネット大手が続々参入する中、追われるLINEは別のステージへと移った。特に、LINE@とLINEマイレージは、舛田いわく「我々としても、LINEを出した時以来の大きなチャレンジ」。実現すれば、既存流通やリアル経済を大きく変える可能性を秘める。
携帯電話が備える音声通話やメールの代替として、すでに3500万人がLINEを活用しており、国民的な情報インフラになりつつある。企業側、ユーザー側双方にとって敷居は低い。ネット上のクーポンサービスと、リアル店舗のポイントサービスが融合するのは、事実上、LINEが初めてで、O2Oが加速するカンフル剤になり得る。
専用端末がない分、加盟店開拓は容易で、利用者側もクーポンを得てから購入、ポイント付与の一連の流れがスマホ1台で事足りる。いちいちカードを提示する必要はない。ここからは想像だが、リアル店舗の決済で「今ならLINEマイレージ5%」といったプロモーションが可能になれば、既存の大手ポイントサービスにとって痛手になるだろう。
何よりLINEは日本製。それだけで日本企業にとっての敷居は下がる。「LINEは日本の会社が日本で開発していて、契約書は日本語ですし、日本語で話もできる」。そう舛田がいつも強調するように、ツイッターやフェイスブックといった“外来種”と比べて手厚い日本語サポートと日本市場優先の姿勢が、日本企業の商用利用を加速させそうだ。
■「イノベーションのジレンマ」の一方で……
NHNJapan舛田淳執行役員。越したばかりの東京・渋谷「ヒカリエ」の真新しいオフィスロビーでは、スタンプの巨大なぬいぐるみが迎えてくれる
「この1年半で、日本ナンバーワンのアクティブユーザーに助けていただいている状況を生み出すことができた。そこが財産でストロングポイントです。だからこそ、いろんなことを仕掛けていける」。舛田はこう話す。
ツイッターや大手ポイントサービスを想定して「ライバルは?」と聞くと、意外にも「タウンページでしょうか」という答え。すべての企業、ショップ、公共団体が必ずアカウントを持ち、LINEを通じて消費者とつながる世界を目指している証左だ。かつてタウンノートが顧客誘導のための広告媒体だったように、LINEはアカウント維持費の名目で収益を得ていく。
スマホというイノベーションは、携帯電話会社から通話やメールといったコミュニケーションの根幹を奪いつつあると同時に、「iモード」など人が集まるメディア機能も奪いつつある。「イノベーションのジレンマ」に陥った携帯電話会社は、「土管屋」の色合いが濃くなるばかり。一方でLINEは世界7500万人、国内3500万人の“しゃべり場”を武器に独走を続けている。
(電子報道部 井上理)