岸田文雄首相は防衛費について、2027年度に防衛費国内総生産(GDP)比2%への増額と、そのための財源問題を年内に決着させるよう、11月28日に関係閣僚に指示した。財務省に誘導されるまま増税を求めた21日付けの「有識者会議」の提言に沿った防衛増税論議が年末にかけて進みそうだ。
中国の習近平独裁政権3期目の今後5年間のうちに「台湾有事」勃発が起きかねないのに、日本はまず増税をとは、平時の感覚にどっぷりと浸かったままだ。内閣支持率が下がり続けるのも無理はない。
有識者会議の正式名称は「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」であり、提言の序文では「経済力と財政余力がなければ、国力としての防衛力がそがれかねない」と指摘している。
その通りだが、財務省御用の識者は増税すれば財政余力は向上するとでも信じているのだろうか。それがトンデモ論法であることはだれでもわかる。それでも有識者と呼ばれて恥ずかしくないのだろうか。岸田首相をはじめ、政府・与党の多くがそんな愚論に引きずられるようでは、それこそ国の安全が危うい。
そこで、日本の国力は過去25年間もそがれ続けてきた事実を改めて提示しよう。グラフは2021年のGDPと防衛費の1996年比を倍数で示す。経済力を代表するGDPは日本の場合、1997年以降25年間の平均成長率はゼロ%である。防衛費はGDP比1%を目安にしてきたが、GDPが増えないのだからその道連れだ。
各国別のGDP、防衛費は、米国2・9倍、2・8倍、英国2・5倍、2倍、ドイツ1・9倍、1・7倍だ。この間、中国はGDP、軍事費とも16倍だ。南シナ海、東シナ海などへの中国軍の海洋進出、さらに台湾、沖縄県尖閣諸島への軍事攻勢など、中国の脅威膨張は経済力の増大に支えられている。その対極が日本なのだ。
日本のGDPが伸びないのは国内需要を萎縮させるデフレのためだ。ところが政府は消費税増税と財政支出削減、社会保険料引き上げによってデフレ圧力を高める政策をとってきた。財政力を示す政府全般の純債務のGDP比は97年当時約30%だったのが21年には130%に膨らんだ。
要するに、増税と緊縮財政こそが財政余力を奪い、家計を細らせるなど国力の衰退を招いた。有識者会議はそんな失敗の教訓を一切省みず、「幅広い税目による負担が必要」とする一方、「歳出改革」の名のもとに防衛以外の項目の歳出削減を求めている。財務省は自民、公明の両与党税制調査会に増税を根回ししている。これはこれまで四半世紀もの間、続けてきた路線の延長であり、国力衰退を促す自滅策だ。
自民党内にはさすがに増税に反発する議員も少なくない。財務官僚はそれを計算済みで、暫定的な財源としての国債発行を黙認する可能性が強い。その場合、財務官僚は国債償還の財源として5年以内の消費税増税案を岸田政権に仕掛けるだろう。 (産経新聞特別記者・田村秀男)