「核攻撃でワシントンまで火の海にできる」とうそぶいていた北朝鮮が対話路線に反転した。「6カ国協議を含むあらゆる形式の会談に出席」と金桂寛第1外務次官が中国の張業筆外務次官に述べた。この1ケ月間に2度も高官を中国に送った北朝鮮だが、その圧力に承伏した格好だ。金正恩体制の脆弱性が目立ってきた。戦略性はおろか泥縄式の「ボロボロの平和攻勢」である。北朝鮮は米国に米朝高官協議を持ちかけたが、米国は「話にならない」と相手にしていない。(久保田るり子)
「いい気になるな」と北朝鮮を締めあげる習近平国家主席の中国
専門家は北朝鮮の豹変の理由は中国の金融制裁発動にあるとみている。5月初旬の中国銀行などによる北朝鮮・朝鮮貿易銀行に対する取引停止や対北送金業務の停止は、習近平体制の対北姿勢を象徴した。ほどなく北朝鮮から朝鮮人民軍の実力者、崔龍海氏が突然訪中した。
軍幹部を伴って訪中した崔氏の目的は、中国に北朝鮮の核保有への理解を求めることだったとされる。だが関係筋によると、崔氏にはもうひとつ重大な任務があったようだ。
金正恩体制が今年最大の行事と位置付けているのが、北朝鮮が戦勝記念日とする朝鮮戦争の休戦協定締結60周年の7月27日の祝賀である。朝鮮戦争を戦った同盟国は中国。そこで「崔氏の任務は60周年に中国からしかるべき要人を迎え、中朝同盟関係を誇示することだった」という。
中朝同盟の後ろ盾を世界に示すことが出来なければ、金正恩氏の権威は失墜する。だが、「崔氏の要請に中国は明確な答えを出さなかった」(日朝関係者)とされる。それどころか中国は、北朝鮮に核実験の中止や周辺国との対話など、容赦ない要求を突きつけたようだ。
北朝鮮があわてて対話路線へ転換した背景には、核武器を振りかざして挑発を繰り返す北朝鮮への中国の「いい気になるな」との圧力があったのは明らか。泥縄式の外交転換に戦略性はみじんもみえない。
メンツをかな繰り捨てた金正恩外交
そんな稚拙な金正恩外交に各国は冷笑している。
訪中した崔龍海氏は金正恩第一書記の最側近でもある。氏は習近平国家主席に金第一書記の親書を渡し、同盟関係強化を訴えた。続いて訪中した金桂寛外務次官は19日、「6カ国協議を含むあらゆる形式の会談に参加し、協議を通じた平和的な核問題解決を希望する」(中国外務省の報道)と全面譲歩したのだ。
金正恩体制のメンツをかな繰り捨てた格好だ。昨年4月、核保有を憲法に明記し、今年1月23日には『6カ国協議、共同声明は死滅した。朝鮮半島の非核化は終末を迎えた。今後、非核化を話し合う対話はない』(外務省声明)と高らかに宣言していた。その6カ国協議に参加するという。
崔龍海氏の訪中後、北朝鮮は6月6日に南北対話を提案、16日に米朝高官級会談を提起、19日に中朝戦略対話を行った。
南北対話の提案日は習近平氏とオバマ米大統領の米中首脳会談の前日だ。北朝鮮は国際世論の動向をうかがいながら、活路を開こうと懸命のようだ。
この南北対話提案で北朝鮮は、開城工業団地再開問題と離散家族面会などで韓国の関心を引きながら、金大中・金正日南北首脳会談で合意した南北共同宣言(6・15合意)の13周年式典を南北共同でやろうと韓国に持ちかけた。6・15合意は南北経済交流の名の元の経済支援に加え、金日成が唱えた連邦制を目指す内容。もし朴槿恵政権が式典共催に同意すれば、韓国の対北制裁はすべて骨抜きすることができる。
韓国は、北朝鮮の意図をたやすく見抜いた。出席者の人選問題で原則論を貫いて会談を決裂させた。
次いで北朝鮮は、米国に米朝高官協議を提起した。だが、米国が一貫して要求している「非核化を前提とした行動」には一切触れず、自国の主張だけを並べた。また金正日時代のようにニューヨーク・チャンネルを使うなどの根回しも行わなかったという。唐突で内容のない提起に米ホワイトハウスのマクドノー首席補佐官は、「方法、議題、条件など、まったく話にならない」と酷評。米国は北朝鮮の真剣味を疑い冷ややかな視線を投げている。
6カ国協議は再開の方向で調整が始まりそうだが、今後のゲームは予断は許さない。今回、対話路線に誘導した習近平体制は「金正恩カード」を生かさず殺さず利用するだろう。中国にとってはボロボロであろうとピカピカであろうと、役に立つ北朝鮮がいい北朝鮮である。金正恩氏が従順であるなら、金氏の初訪中も視野に入るだろう。
「いい気になるな」と北朝鮮を締めあげる習近平国家主席の中国
専門家は北朝鮮の豹変の理由は中国の金融制裁発動にあるとみている。5月初旬の中国銀行などによる北朝鮮・朝鮮貿易銀行に対する取引停止や対北送金業務の停止は、習近平体制の対北姿勢を象徴した。ほどなく北朝鮮から朝鮮人民軍の実力者、崔龍海氏が突然訪中した。
軍幹部を伴って訪中した崔氏の目的は、中国に北朝鮮の核保有への理解を求めることだったとされる。だが関係筋によると、崔氏にはもうひとつ重大な任務があったようだ。
金正恩体制が今年最大の行事と位置付けているのが、北朝鮮が戦勝記念日とする朝鮮戦争の休戦協定締結60周年の7月27日の祝賀である。朝鮮戦争を戦った同盟国は中国。そこで「崔氏の任務は60周年に中国からしかるべき要人を迎え、中朝同盟関係を誇示することだった」という。
中朝同盟の後ろ盾を世界に示すことが出来なければ、金正恩氏の権威は失墜する。だが、「崔氏の要請に中国は明確な答えを出さなかった」(日朝関係者)とされる。それどころか中国は、北朝鮮に核実験の中止や周辺国との対話など、容赦ない要求を突きつけたようだ。
北朝鮮があわてて対話路線へ転換した背景には、核武器を振りかざして挑発を繰り返す北朝鮮への中国の「いい気になるな」との圧力があったのは明らか。泥縄式の外交転換に戦略性はみじんもみえない。
メンツをかな繰り捨てた金正恩外交
そんな稚拙な金正恩外交に各国は冷笑している。
訪中した崔龍海氏は金正恩第一書記の最側近でもある。氏は習近平国家主席に金第一書記の親書を渡し、同盟関係強化を訴えた。続いて訪中した金桂寛外務次官は19日、「6カ国協議を含むあらゆる形式の会談に参加し、協議を通じた平和的な核問題解決を希望する」(中国外務省の報道)と全面譲歩したのだ。
金正恩体制のメンツをかな繰り捨てた格好だ。昨年4月、核保有を憲法に明記し、今年1月23日には『6カ国協議、共同声明は死滅した。朝鮮半島の非核化は終末を迎えた。今後、非核化を話し合う対話はない』(外務省声明)と高らかに宣言していた。その6カ国協議に参加するという。
崔龍海氏の訪中後、北朝鮮は6月6日に南北対話を提案、16日に米朝高官級会談を提起、19日に中朝戦略対話を行った。
南北対話の提案日は習近平氏とオバマ米大統領の米中首脳会談の前日だ。北朝鮮は国際世論の動向をうかがいながら、活路を開こうと懸命のようだ。
この南北対話提案で北朝鮮は、開城工業団地再開問題と離散家族面会などで韓国の関心を引きながら、金大中・金正日南北首脳会談で合意した南北共同宣言(6・15合意)の13周年式典を南北共同でやろうと韓国に持ちかけた。6・15合意は南北経済交流の名の元の経済支援に加え、金日成が唱えた連邦制を目指す内容。もし朴槿恵政権が式典共催に同意すれば、韓国の対北制裁はすべて骨抜きすることができる。
韓国は、北朝鮮の意図をたやすく見抜いた。出席者の人選問題で原則論を貫いて会談を決裂させた。
次いで北朝鮮は、米国に米朝高官協議を提起した。だが、米国が一貫して要求している「非核化を前提とした行動」には一切触れず、自国の主張だけを並べた。また金正日時代のようにニューヨーク・チャンネルを使うなどの根回しも行わなかったという。唐突で内容のない提起に米ホワイトハウスのマクドノー首席補佐官は、「方法、議題、条件など、まったく話にならない」と酷評。米国は北朝鮮の真剣味を疑い冷ややかな視線を投げている。
6カ国協議は再開の方向で調整が始まりそうだが、今後のゲームは予断は許さない。今回、対話路線に誘導した習近平体制は「金正恩カード」を生かさず殺さず利用するだろう。中国にとってはボロボロであろうとピカピカであろうと、役に立つ北朝鮮がいい北朝鮮である。金正恩氏が従順であるなら、金氏の初訪中も視野に入るだろう。
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