06/12/29kaiho
7.3 自己モニタリング力を高める
自分の心を知るには、内省をすることになる。内省は、心理学の中では、その扱いが面倒なものの一つである。やや余談じみた話になるが、内省をめぐって何があったかについて一言。
1879年に実験心理学の研究室を作り、現代心理学の祖とされているW.ブントは、実験室の中で周到に準備した刺激を知覚させたときの心の動きを子細に内省報告させることによって心理データを収集した。これは内観法と呼ばれた。
その後、被験者に内省の仕方を訓練してから実験をする「組織的内観法」も弟子のティッチナーによって考案されたが、行動主義の勢いに押されて、内観法は、ほぼ半世紀にわたり、心理学の技法からは追放されてしまった。
半世紀がたって、行動主義に代わって、頭の中の高次の精神過程に目を向けるべしとする認知主義が台頭してきた。その中で、頭の中で今起こっていることをそのまま報告させたデータを使った分析(プロトコル分析)が使われるのようになり、再び、「内省」が復活してきた。ただし、内観法は、課題が終ってから遡及的に心で起こったことを振り返るのに対して、プロトコル分析では課題をしながら心の動きをオンラインで(その時その場で)発話するので、まったく同じではないが、心に中に目を向ける点では共通している。
いずれにしても、小学校高学年くらいから人間には、その巧拙はあるにしても、自分で自分の心を内省してそれを言語報告する能力がある。それを心理学のデータとしてどのように利用するかはさておいて、ここでは、エラー、事故を防ぐことを念頭において、メタ認知力をつけるために、内省をどのようにしたらよいかを考えてみる。
●内省の習慣をつける
性格的なところもあるので、誰もがいつでもというわけにはいかないが、自分の心を内省する習慣をつけることが第一である。そのためには、心の日記のようなものを付けさせることが一番であるが、業務日誌などに、内省報告的な項目を用意しておくようなやり方もある。いずれにしても、書かせることによって、より深い内省に導くことができる。
とりわけ、エラー、事故のリスクが高いところでは、内省の習慣は必須である。この中には、予想されるエラー、事故へ思いはせることも含まれる。いわば、バーチャルKYTの習慣づけである。
●ヒヤリハット体験を活かす
内省ができない、あるいは内省習慣のない人でも、インシデント(ヒヤリハット)やアクシデント(事故)を体験したときは、自分がなぜ、どうしてとなるはずである。
それを報告させるときに、ここでも、内省を促す項目やチェックリストを用意するとよい。言うまでもないが、自分の心だけの問題としてしまわないために、状況分析(5W1H)は必須であるが、それに加えて次のようなチェックリストの項目を用意することになる。
・エラーのタイプ(「うっかりミス」か「思い込み」か「記憶違 いか)
・エラーにつながった自分の側の原因
注意(レベルは コントロールできていたか)
状況認識(見聞き落とし、見聞き間違いなど)
判断(妥当性 情報の量と質)
行為(省略 やらずもがな 時間遅れやはやとちり)
ある看護学校では、自分でヒヤリハット体験を経験する事態を作り、そのときの自分の感じたこと、思ったことを報告させる訓練、いわば、プロトコル・ベースの内省訓練を試みている。オンラインの発話が難しければ、ビデオ録画しておいてから事後的に、ビデオを見ながら「あの時、何を考えていたか」を問うようなやり方も効果的である。
●心を記述する語彙(心理学用語)、知識を豊富にする
誰もが自分の心を語る語彙はそれなりに持っている。たとえば、自分の今の感情状態を語ることができる。あるいは、事故を起こしてしまったときの注意の状態がどうなっていたかを語ることができる。
これは、誰もがそれなりに内省力を持った「心理学者」だからである。しかし、この素人心理学者は、認識が浅くてあいまい、世間的な常識に囚われるなど必ずしも、自分の心を適切に知ることができるわけではない。
それをより適切で深いものにするためには、心理学の語彙、知識を持つことである。
7.3 自己モニタリング力を高める
自分の心を知るには、内省をすることになる。内省は、心理学の中では、その扱いが面倒なものの一つである。やや余談じみた話になるが、内省をめぐって何があったかについて一言。
1879年に実験心理学の研究室を作り、現代心理学の祖とされているW.ブントは、実験室の中で周到に準備した刺激を知覚させたときの心の動きを子細に内省報告させることによって心理データを収集した。これは内観法と呼ばれた。
その後、被験者に内省の仕方を訓練してから実験をする「組織的内観法」も弟子のティッチナーによって考案されたが、行動主義の勢いに押されて、内観法は、ほぼ半世紀にわたり、心理学の技法からは追放されてしまった。
半世紀がたって、行動主義に代わって、頭の中の高次の精神過程に目を向けるべしとする認知主義が台頭してきた。その中で、頭の中で今起こっていることをそのまま報告させたデータを使った分析(プロトコル分析)が使われるのようになり、再び、「内省」が復活してきた。ただし、内観法は、課題が終ってから遡及的に心で起こったことを振り返るのに対して、プロトコル分析では課題をしながら心の動きをオンラインで(その時その場で)発話するので、まったく同じではないが、心に中に目を向ける点では共通している。
いずれにしても、小学校高学年くらいから人間には、その巧拙はあるにしても、自分で自分の心を内省してそれを言語報告する能力がある。それを心理学のデータとしてどのように利用するかはさておいて、ここでは、エラー、事故を防ぐことを念頭において、メタ認知力をつけるために、内省をどのようにしたらよいかを考えてみる。
●内省の習慣をつける
性格的なところもあるので、誰もがいつでもというわけにはいかないが、自分の心を内省する習慣をつけることが第一である。そのためには、心の日記のようなものを付けさせることが一番であるが、業務日誌などに、内省報告的な項目を用意しておくようなやり方もある。いずれにしても、書かせることによって、より深い内省に導くことができる。
とりわけ、エラー、事故のリスクが高いところでは、内省の習慣は必須である。この中には、予想されるエラー、事故へ思いはせることも含まれる。いわば、バーチャルKYTの習慣づけである。
●ヒヤリハット体験を活かす
内省ができない、あるいは内省習慣のない人でも、インシデント(ヒヤリハット)やアクシデント(事故)を体験したときは、自分がなぜ、どうしてとなるはずである。
それを報告させるときに、ここでも、内省を促す項目やチェックリストを用意するとよい。言うまでもないが、自分の心だけの問題としてしまわないために、状況分析(5W1H)は必須であるが、それに加えて次のようなチェックリストの項目を用意することになる。
・エラーのタイプ(「うっかりミス」か「思い込み」か「記憶違 いか)
・エラーにつながった自分の側の原因
注意(レベルは コントロールできていたか)
状況認識(見聞き落とし、見聞き間違いなど)
判断(妥当性 情報の量と質)
行為(省略 やらずもがな 時間遅れやはやとちり)
ある看護学校では、自分でヒヤリハット体験を経験する事態を作り、そのときの自分の感じたこと、思ったことを報告させる訓練、いわば、プロトコル・ベースの内省訓練を試みている。オンラインの発話が難しければ、ビデオ録画しておいてから事後的に、ビデオを見ながら「あの時、何を考えていたか」を問うようなやり方も効果的である。
●心を記述する語彙(心理学用語)、知識を豊富にする
誰もが自分の心を語る語彙はそれなりに持っている。たとえば、自分の今の感情状態を語ることができる。あるいは、事故を起こしてしまったときの注意の状態がどうなっていたかを語ることができる。
これは、誰もがそれなりに内省力を持った「心理学者」だからである。しかし、この素人心理学者は、認識が浅くてあいまい、世間的な常識に囚われるなど必ずしも、自分の心を適切に知ることができるわけではない。
それをより適切で深いものにするためには、心理学の語彙、知識を持つことである。