「落下の解剖学」
第76回(2023年)カンヌ国際映画祭パルムドール(最優秀作品賞)受賞作。また今年の米アカデミー賞にも数部門ノミネートされています。
出てる役者さんほぼ知らん。ここんとこフランス映画から遠ざかってるもんなぁ~…と思ったけど主演のザンドラ・ヒュラーはドイツ人よな💦←知ったかぶって墓穴掘るタイプw
あらすじ
ベストセラー作家のサンドラ(ザンドラ・ヒュラー)は、夫と視覚障害のある11歳の息子(ミロ・マシャド・グラネール)と人里離れた雪山の山荘で過ごしていたが、あるとき息子の悲鳴を聞く。血を流して倒れる夫と取り乱す息子を発見したサンドラは救助を要請するが、夫は死亡。ところが唯一現場にいたことや、前日に夫とけんかをしていたことなどから、サンドラは夫殺害の容疑で法廷に立たされることとなり、証人として息子が召喚される。(Yahoo!検索情報から丸パク)
予告編見た時の印象で、本作は「夫の死は事故だったのか、自殺だったのか、それとも殺人だったのか」を明らかにする法廷サスペンスだとばかり思っていたのですが、蓋を開けたらちょっと方向性が違いましたね。起こった事件の真相を暴くという事ではなく、事件をきっかけに法廷でこの家族が抱える問題や家族個々の思惑や秘密などを1枚1枚薄紙を剥がしていくかのようにさらけ出してつまびらかにされていく様を描いているヒューマンドラマ、という体の作りでした。
大学で講師(夫)と生徒(妻)という関係?(多分)で出会って愛し合って結婚した夫婦。共に小説を書いて出版する事を夢みていた…そもそもは夫の方が小説家志望が強かった印象ですが、結果的に小説家として成功を収めたのは妻の方。しかも夫が具現化出来ずにボツった小説のアイディアを妻が使って成功を収めると、夫の嫉妬は爆発して精神的に不安定に。
更には夫が数年前に息子の学校の送り迎えをサボってシッターに任せた際に運悪く事故に巻き込まれ、その事故により息子が失明してしまう。この件は夫婦共「夫のせいで息子が失明した」という共通認識があり、子供との関わりにもかなりナーバスになっている。更にはこの鬱屈した夫婦関係のストレスもあり?妻は複数人との性交渉(しかも相手は女性だったり)を持っており、それを悪びれる事もなく夫に告げているという…なかなかフツーの家庭にはない事情がてんこ盛っている事が法廷が進むにつれて次々と明るみになるわけです。
この妻・サンドラ役を演じたザンドラ・ヒュラーが上手い。
次々と夫婦関係の歪みが法廷で明らかになっていく課程で、彼女も色々逡巡して友人でもある弁護士にあれやこれやと助言を求めたり自分が思い出した事を語ったりと必死な様子が描かれている訳ですが…なんだろうな、全然彼女に同情出来ない自分がいるんだな。先にも書いたけどこの映画を「法廷サスペンス」だと思いながら観ていたので、ぶっちゃけ実際この人は夫を殺害したのか?と疑いつつスクリーンを見ている訳で。
そーするとね、この主人公のサンドラという女に全く感情移入が出来ず、なんなら「やっぱお前が殺ったんちゃうん?」位の気持ちにしかならなかったんですよね。要するにね、観客が微妙~に寄り添えないキャラを彼女が見事に演じていたという事なんですよね。コレ簡単そうでなかなか誰でも出来る芸当ではないと思いますね。凄いです。
更に息子のダニエルを演じた子役のミロ・マシャド・グラネール君(秒で忘れそうな名前だなぁ💦)も良かった。視力が無いという事がもっと物語に深く食い込んで来るのかな?と思ってたんだけど、意外にこの部分に関してはサラリと流されている印象がありました。でも彼の演技(特にクライマックスの泣きの演技)は良かったと思いますね。
ついで言うとこの家で飼ってる犬は更に凄かったなーアレどーやって演技させてるんだろう?CGなの?謎過ぎる名演技だったわ。
でね、
キモは映画序盤で友人の弁護士がサンドラに語る「裁判は真実なんてどうでもいい(判事にどう受け取られるかが重要)」という主旨のセリフと、法廷で自分の知らなかった両親の事情や姿を次々聞かされて、当時の様子を思い出しては何が真実だったのかを推し量り悩み続けるダニエルに対して、裁判所から付き添いとしてダニエルにあてがわれた女性が「何が真実なのかが判らなくても、最後は自分でどちらかに決めなければならない」と語るシーンがあるんですよね。
人は見たいモノを見る。人は見たいモノしか見えない。
検察はサンドラの恥部だけを切り取っていかに彼女が夫をないがしろにして家事もロクにせず全て夫に押し付け、更には大した稼ぎもない夫を疎んでいたのだと主張し→だから殺害動機は充分あるし状況的にも彼女しか夫を殺害し得る人物はいない、と周囲にアピールしていきます。
その一方で「もしかしたら夫(父親)は自殺願望があったのかもしれない」という事に思い至る主人公のサンドラと息子のダニエル。サンドラはともかく息子のダニエルは思い当たるフシがありそれを確かめる為にかなりエグい実験までしていて、あのシーンは胸を抉られるような何とも言えない気持ちになりましたね。
1つの事件が見る人の視点や視界、または誰に対して悪意を持って見るのかによって姿形を変えてまるで違う様子を見せていく…「曇りなき眼(まなこ)」という言葉はあるけれど、実際にはそんなものは存在し得ないのだ、と思わせるフランス映画らしい作品でした。