17歳のおちかは、実家で起きたある事件をきっかけに、ぴたりと他人に心を閉ざしてしまった。ふさぎ込む日々を、江戸で三島屋という店を構える叔父夫婦のもとに身を寄せ、慣れないながら黙々と働くことでやり過ごしている。そんなある日、叔父・伊兵衛はおちかを呼ぶと、これから訪ねてくるという客の対応を任せて出かけてしまう。おそるおそる客と会ったおちかは、次第にその話に引き込まれていく。いつしか次々に訪れる人々の話は、おちかの心を少しずつ溶かし始めて…
幸福な家庭、善なる人々……しかしその奥底にひそむ小さな邪悪さを、宮部みゆきは決して見過ごしてはくれない。だから読み続けるのが時にしんどくなるほどだ。ストーリーは圧倒的に面白く、描写も達者であるだけに、その潔癖さが読者を苦しめる……あなおそろし。
特に、近親相姦によって家族が腐っていく過程など、夢に出そうなくらい。連載は「家の光」で行われた。全国の農村の女性たちは、どんな思いでこの小説を読み進めたのだろう。
そして現在、続編が“世界最多の発行部数”を誇る読売新聞で連載されている。日本人の多くが、うなされなければいいのだけれど。