擬人化されたクルマの視点で語られるファンタジー。車種によってその性格が簡単に把握できるので、特にクルマ好きにはうれしい小説でもある。やり方は「カーズ」だけど、クルマたちの性格は「きかんしゃトーマス」に近いかも。とにかくかわいい。
クルマのパフォーマンスも擬人化されていて、驚いたときには「思わずワイパーが動く感じ」なのは説得力あるなあ。ドライバーの運転が乱暴だと、クルマたちは気を失ってしまうという設定も、いろいろと考えこませてくれます。安全運転しましょうね。
主人公は緑のデミオ。持ち主の家族にひたすら愛される存在。おかげで終章(ここだけ人間の視点)はけっこうグッときます。隣家にはおそろしく古いカローラ。所有者は小学校の校長先生。夜回り先生でもある彼は、クライマックスで驚くべき行動にでる。彼の教育方針は「フランク・ザッパを聴け」(笑)
ストーリーの核となっているのは、ダイアナ妃の事故死。パパラッチとのチェイスの果てに亡くなったあの悲劇とほぼ相似形をなす事件が仙台で起こる。その真相は……
絶対悪、としか表現できないキャラが、大人と子どものそれぞれ3人セットで登場。その悪に立ち向かうのは可愛げのない天才少年。彼を守るためにデミオがけなげに活躍する。およそクルマは自分の意志で動くことができない。その反証としてスピルバーグの「激突!」と、スティーブン・キングの「クリスティーン」が例示されていて笑えます。
例によって、このネタはさすがにストーリーとは関係ないだろうと油断していると、ラストに至ってすべて伏線だったという伊坂調。新聞小説でこれをやるとは勇気あるなあ。伊坂調といえば、どこかで会ったキャラが特別出演するのもいつもどおり。今回は“あのお父ちゃんたち”だったのでうれしい。伊坂ファンは必読ですよ。
ガソリン生活 価格:¥ 1,680(税込) 発売日:2013-03-07 |