渡哲也のイメージといえば、石原軍団を率いるビッグ・ボスだろうか。レイバンのサングラスに短髪という、これ以上ないくらいに怖いルックスの「西部警察」でファンになった人も多かったはず。
日活でデビューし、石原プロで数々のアクションドラマに主演した彼は、実はその間に映画史に燦然と輝く東映やくざ映画の代表作に主演している。しかも二本も。実在のやくざ、石川力夫を演じた「仁義の墓場」と、この「やくざの墓場 くちなしの花」。どちらも深作欣二監督作品。どちらもビッグボスのイメージをひっくり返す狂犬ぶり。「仁義の墓場」もいずれ特集するとして、まずは「やくざの墓場」。
DVDで見ていたら妻が
「あら、『やくざの墓場』ね!?あたしこれお姉ちゃんといっしょに見たんだあ。感動したわあ。」
どんな姉妹なんですか。
オープニングにいきなり「昭和51年度 文化庁芸術祭参加作品」と字幕が。まあ実際には参加せずに終わったらしいが、受賞でもしていたら痛快だったろう。この映画には権力への壮絶な皮肉がしこんであるので。
舞台は、なにしろ実録をうたっているのではっきり出てこないがまぎれもなく大阪。テレビの「大都会」と同じ、黒岩という名の暴対担当の刑事(渡)が、やくざ相手に暴力つかいまくりの捜査をかまし、成田三樹夫、藤岡重慶など、どっちがやくざだかわからない府警上層部に叱責される。
しかしその上層部は、府警OBの金融業者(佐藤慶)経由で広域暴力団山城組(きっと菱の代紋ですね)とつながっていたという事情もからんでいる。山城組にあくまで刃向う西田組傘下の組長岩田(梅宮辰夫)と黒岩は、反発しあいながらも義兄弟の杯を交わす……
脚本の笠原和夫は、はっきりとやくざの背景に民族問題があると指摘している。ヒロインの梶芽衣子は夫の出所を待つ身だが、朝鮮人とのハーフである出自を罵倒され
「あたしにだって帰るところはあるわ」
と鳥取砂丘で(!)泣き崩れ、岩田は
「おれはな、純粋の朝鮮や。それでも兄弟になってくれるか」
と黒岩に告げる。黒岩自身も引揚者であることが語られ、つまりは日本にも半島にも大陸にも居場所が見つけられなかった男女が、それでも排除され続ける物語だったわけだ。梶芽衣子の美しさは比類がない。
ちなみに府警本部長には大島渚がキャスティングされており、これは「愛のコリーダ」で被告となっていた大島への、深作なりのエールだろう。彼らもまた、なかなか居場所を見つけられない人たちだった。