「うわ。泣いちゃったぜ」
鶴岡まちなかキネマで見終わって。
「泣く?そういう映画だった?」
妻よ、三十年もいっしょに暮らしてきて、こんなに距離を感じたことは……
舞台は中世の日本。何かから逃げ出した女性が小舟で荒海を漂っている。彼女はついに波の力に負け、海底の岩に叩きつけられて気を失ってしまう。夜が明け、彼女はこどもの泣き声で目を覚ます。彼女の子、クボは生きている……
圧倒的に暗い展開。母は次第に心が壊れていく。彼女の世話をするクボは、近くの村で三味線で折り紙をあやつりながら物語ることで糊口をしのいでいる。しかしクボは、最後まで語ることがいつもできない。その物語は母親の実体験であり、彼女はそれを最後まで思い出すことができないからだ。
黒澤明と宮崎駿の映画がもとになっている展開はそれだけで素晴らしい。折り紙がさまざまな生き物となって画面をはずませる。しかしそれ以上に泣かせてくれるのは、タイトルの二弦(二本と日本のダブルミーニングは偶然だろうけど)の意味と、物語を終結させる満足感が観客と共有できるラストのためだ。
わたしは日本語吹替版で見たんだけど、字幕版では声優はシャーリーズ・セロン、レイフ・ファインズ、マシュー・マコノヒー、ルーニー・マーラ、そして70年代の映画好きなら忘れられないはずのブレンダ・バッカロ!すごいな。
でも吹替版もすごいのよ。しんちゃんの矢島晶子はクールだし、父親(あ、ネタバレ)のピエール瀧はホット。母親役は田中敦子さんなので「攻殻機動隊」の少佐が母性をむき出しにしている!おまけにラストに流れる「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」(作ったのはジョージ・ハリスンだけど弾いたのは彼といろいろあったエリック・クラプトン)には向こうからの要請で吉田兄弟が参加!んもう何がなんだか。おばあちゃん役は意外なシンガーだし。
製作しているのはライカという会社。そのCEOが監督のトラヴィス・ナイト。彼はナイキの創業者の息子で、ストップモーションアニメにこだわっている。えーと、ウォレスとグルミットを思い起こしてください。コマ撮りです要するに。パーツをとっかえひっかえして一週間に3秒しか撮影できないとか。バカだなあ。
でもバカしか作れない作品がこれだ。母親の顔にうっすらと残る傷痕とか、どれだけ手間かけてるんだ。「え、あれCGじゃなかったの?」妻はいきなり感激しています。傑作!