円城塔の名前は「本の雑誌」でおなじみのものだった。おそらくはSF評論家の大森望経由でエッセイの連載が始まったのだろうけれど、あの雑誌のなにが怖いかというと、原稿到着順に著者紹介がなされることなのだ。わたしが連載している雑誌でそんなことをやられた日には……
で、円城はそこでほとんど常にトップを飾っていたりする。原稿の質も高い。よほど書きたいことがたまっているか、〆切を守らないことが我慢できないのだろう。さすが、理系の人は違う。
さて、この「これはペンです」はSFがらみの人たちの間で大評判。芥川賞の候補にもなった。そうしたら
「十五年続けた選考委員を今回で辞する。最後にこういう作品に出会えたことを嬉しく思う」(池澤夏樹)
「私にとって最も切実な問題をはらんでいたのは、『これはペンです』だった」(小川洋子)
「各パラグラフにちりばめられたヒューモアには幾度となく微笑を誘われたので、二重丸をつけた」(島田雅彦)
と絶賛する審査員もいれば
「文章を使ったパズルゲイムに読者として付き合う余裕はどこにもない」(石原慎太郎)
「書き出しのたった十ページを読んだだけで眠くなり、全篇読了は難行苦行だった。要するに、つまらなかったのだ」(宮本輝)
……わははは。結果的に落選(次の回で受賞)したけれど、これはもう絶対に読みたくなるではないですか。
"叔父は文字だ。文字通り。 だからわたしは、叔父を記すための道具を探さなければならない"
……という書き出しはいかにもハードルが高いけれど、寅さんに代表される“難儀な家族”パターンに理系言語をのせた仕様はとても快適。へ理屈もここまでくると立派だと思えてくる。
オリジナリティとは何か、作品とは何かを読者に問いかけ、同時にいなしもする。併録された「良い夜を待っている」との連関も楽しい。こりゃ、面白いですよ。
これはペンです 価格:¥ 1,470(税込) 発売日:2011-09-30 |
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