きわめて島田荘司らしい作品。最初に圧倒的な不可思議な状況を提示し、後段で(強引ではあっても)その謎を解き明かしていく……多くのミステリがそうなってるじゃないかと思われるかもしれない。
しかし一度は社会派ミステリに押されて衰退した本格を、新本格として復活させたのが島田の「占星術殺人事件」である以上、当然のことだ。彼がルールブックだったのだし。けれん味たっぷりの筆致といい、わくわくさせてくれる。
世界中で人気を博す、生きる伝説のバレリーナ・クレスパンが密室で殺された。
1977年10月、ニューヨークのバレエシアターで上演された「スカボロゥの祭り」で主役を務めたクレスパン。警察の調べによると、彼女は2幕と3幕の間の休憩時間の最中に、専用の控室で撲殺されたという。しかし3幕以降も舞台は続行された。
さらに観客たちは、最後までクレスパンの踊りを見ていた、と言っていて……
……3幕目以降は死者が踊っていたのか、という大ネタ。確かに、3幕目以降は頭から出血しているのを関係者が目撃している。終幕後、彼女はカーテンコールに出てこない。休憩室は内側から施錠されており、ドアを破壊してなかに入ると、クレスパンは頭部を殴られて殺されていた。完璧な密室。しかも廊下にはボディガードが眼を光らせていて、誰も休憩室には入らなかったと証言する。
いやーかましてますね。しかもこの謎を解くのが名探偵御手洗潔なのである。待ってました!
ただ、ネタバレになるんですけどこの作品はミステリでやってはいけないこと(たとえば有名なノックスの十戒の)を少なくとも二つはやっちゃってます(笑)。
しかし、バレリーナが高く跳んだように見せるために、バレエシアターの舞台は少し傾斜しているとか、コクのある展開がうれしい。至福の読書でした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます