2023年差額号「NYでラーメンを。」はこちら。
奇書「ドグラ・マグラ」などで知られる夢野久作に「眼を開く」という短篇があります。
隠遁し、山奥の空き家に住み着いた作家。そこへ毎日郵便を届ける中年の配達人。彼は一日たりとも配達を休むことはなかった。しかし、三日ほど彼が来ないことに気づく。住民たちは、郵便物を持ち逃げしたのではないかと疑う。胸騒ぎがした作家は吹雪のなかを捜しに行き、荷物を抱えたまま凍死していた配達人を見つける。
「その死顔には何等の苦悶のあとも無く、あの人相の悪い、頑固一徹な感じは、真白い雪の中に吸い取られてしまったのであろう。あとかたもなく消え失せて、代りにあの国宝の仏像の唇に見るような、この世ならぬ微笑が、なごやかに浮かみ漂うているのであった。」
郵便配達人の誇りがうかがえる、みごとな作品でした。
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その、郵便がピンチです。
日本郵便は今年の秋をめどに、定形郵便物の料金、84円(25g以下)94円(50g以下)を110円に値上げする方針。はがきも63円から85円にすると。その理由として
・郵便物の数がピーク時の263億から144億とほぼ半減している
・郵便事業の3/4を占める人件費が上昇する
・配達に使うクルマやバイクの燃料費が高騰している
ということで、4年後には事業全体で3000億円もの赤字となる見込み。しかし、値上げしたとしても2026年度には赤字になる予想なので、再値上げもありうるというのです。
自分の生活にあてはめてみるとよくわかります。郵便事業でもっとも利幅が大きいと予測されるのは年賀状でしょうか。一気に大量に届くあの存在が重要だったはずなのに、わたしは一枚も出さなくなってしまいました。SNSの浸透はこれからもつづくでしょうから、その意味で郵便はお先真っ暗です。
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自治会長として(笑)、地元のコミュニティ振興会の新年会に出席してきました。で、来賓席には市長、市議、小学校長などと並び、郵便局長がいます。必ずいます。
これはどういうことかというと、歴史的経緯があります。
郵便事業がスタートしたころ、財政がきびしかった明治政府は、地元の名士(かつての庄屋や名主など)から土地と建物の一部を無償で提供してもらい、その代わりに彼らを「郵便取扱役」に任命したのです。だから一般的に郵便局長というのは偉い人、というイメージが今も続いているというわけ。
その郵便局は日本全体で2万4千ほど存在します。金融機関としてカウントすると、その多さが際立ちます。たとえば、酒田と遊佐を見てみると支店の数は
・Y銀行 4
・S銀行 5
・K銀行 2
・JA 8
・R金庫 1
・T信金 3
それに比べて郵便局は52もあるのです(某校事務職員調べ)。
どんな地域にも等しく便益を提供するユニバーサルサービスにおいて、誇り高き郵便局はかかせないものですが、はたしてこれからどうなっていくのか。そして、眼を見開けばその姿こそ公立小中学校の未来予想図ではないかと。
本日の1冊は「地雷グリコ」青崎有吾著 KADOKAWA
抱腹絶倒のミステリ。なにしろネタが子どもの遊びなのである。表題作はあの「グリコ・チヨコレイト・パイナツプル」のグリコじゃんけん。他にもだるまさんがころんだ、神経衰弱など。異様に勝負強い女子高生が、偶然を排し、徹底して考え抜いて勝ち抜いていく。裏の裏の裏をかく姿勢がたのもしい。
2024年2月号「寒冷地手当」につづく。
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