「ひょっこりひょうたん島」は、リアルタイムで見ていなくても、名前だけは知っている読者が多いと思う。NHK総合テレビで平日の17:45から15分間、1964年から69年まで放映された伝説の人形劇だ。
わたしはかろうじて間に合いました。今でも主題歌が流れてくると(なにしろNHKの財産だからやけに回顧番組で流れる)血がたぎってきます。
火山の噴火によって漂流することになったひょうたん島。ちょうどそこにはサンデー先生(楠トシエ)に引率された子どもたちがいて、奇天烈な大人たちと冒険をくり広げる。このドラマを書いたのが井上ひさしと山元護久。人形の操演はひとみ座。そしてあまりにも有名な声優たちがからんだ。
制作者、そして演出者でもあった武井博さんが著した「泣くのはいやだ、笑っちゃおう『ひょうたん島』航海記」(アルテスパブリッシング)で、内幕を明かしてくれているのでちょっと紹介しましょう。
まず、この回顧本がなかなかすばらしいのだ。武井氏の温かい人柄がうかがえるというか。なにしろNHKを退職してから、牧師さんになってしまったという気合いの入り方。くわえて、入局してすぐに志望先を訊かれて……
私は、迷うことなく「子ども向けテレビ番組の制作班」と書いて提出しました。私には一つの思いがあったからです。
私は二歳の時に母を亡くした末っ子で、しかもすぐ上の兄とは十二歳も離れているという一人っ子のような境遇で育ちました。
そんな私を育ててくれたのは、もう腰の曲がった優しい祖母でした。それはまことにありがたかったのですが、困るのは遊び相手でした。とくに雨の日などに、友だちの家に行って、窓ガラス越しに家の中をのぞくと、兄弟同士が楽しそうに遊んでいます。その様子を見ると、とても声などかけられなくて、しょんぼりとまた家に戻るしかありませんでした。
……こういう人のつくったドラマが温かくないわけがないですわね。以下次号。
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