江戸川乱歩の「赤い部屋」は怖ろしい掌編だった。絶対に捕まらない方法で数多くの人間を殺す方法がこれでもかと開陳される。いわゆる、プロパビリティー(確率)の犯罪。失敗してもかまわないから何度でもトライできる。
乱歩はこう説明している。
「あまのじやく」で強情ものの盲人が、「もつと左によらなければ危い。右は地下工事の深い穴がある」と知人に声をかけられて、「そんなことを云つて、又、からかうのだろう」と、わざと逆の右の方により、下水の穴におちて、うちどころが悪く一命ををおとすとか、夜中に、けが人をのせた自動車の運転手に、近くの医者をたずねられ、右に行けば上手な外科医院があるのを知りながら、左の方のへたな内科兼業の医院を教え、手当てがおくれて、けが人が遂に死んでしまうとか……
法月綸太郎はそこからもうひとひねりして読者を不安にさせる。
そう、古今の名作へのオマージュであるこの短編集の基調音は「不安」であり、「恐怖」だ。いやこれはなかなかでした。
特にラストの「最後の一撃」は、ミステリファンにとって最悪の恐怖を描いております。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます