冒頭とラストに、白い馬が登場する(最後のはちょっとしか出てこないので気をつけて)。ペガサスに代表されるように、白馬はきわめて神話的存在なので、この過激な戦争映画も、実は神話ですよという縁取りがなされている。
ストーリーはきわめて単純。1945年4月というから、あと一ヶ月でナチスが降伏する直前のドイツ。「フューリー(激怒)」とペイントされた砲身をもつ一台の米軍戦車の、わずか一日のお話。
乗員のリーダーは、「あいつといると死なない」と信頼されているドン(ブラッド・ピット)。部下に、私生活の荒れはおさまったのかシャイア・ラブーフ、「大いなる陰謀」の若き学生役が泣かせたマイケル・ペーニャなど。
転戦に転戦を重ねた彼らは、そのなかで次第に人間性を失っていく。戦場だから仕方がないんだと。
そんなところへ転属されてきたのが、タイピストとして入隊したはずなのに、戦場にかりだされてしまったノーマン(童貞役ならまかせとけ「ノア」のローガン・ラーマン。この映画における未経験とは、セックスだけではなく、殺人でもあるあたりがせつない)。彼の眼は同時に観客の眼で、アメリカにとって偉大な戦争だったはずの第二次世界大戦が、しかしどれだけ血塗られたものだったかが冷徹に映し出される。アメリカ人、これを見てどう思っただろう。
青空や陽光はほとんど描かれず、地面はぬかるみ、意外な方向から銃弾は飛んできて首は飛び、脚はひきちぎられ、そして神経を痛めていく。
彼らの最後のミッションは、ある十字路を守ること。ドイツの優秀なタンクによって(戦車の一騎打ちのシーンはすごい)たった一台になったフューリーは、強敵の戦車を倒したのに、ケチな地雷のために車輪が壊れてしまう。そこへドイツ軍の行進が……
修羅場となったクロスロードを真上から撮ったラストに息をのむ。戦争のはらわたとは、こんなものなのだと。
誰でもがスピルバーグの「プライベート・ライアン」との相似を指摘すると思う。しかし大きな違いは、フューリーの搭乗員たちの、母国での生活をまったく語らないでエンディングを迎えるということ。怒りの矛先は、純粋に人間の愚かさに向けられている。150分、疲れましたー。
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この監督は、なかなかのバランス感覚も持ち主ですね。
買いです。
困ったもんですよね。
戦争映画では(武骨なだけで)脇役が多かった
戦車が、あれほどの威力をもっていたとはなあ。