キネ旬という映画雑誌を読み始めて、もう五十年近くになる。高校生のときは、もう無くなった書店に通い続けた。発売日が楽しみで何度も何度も(当時は配本が不安定で、発売日がよく遅れた)。
卒業するときに、ちゃんと店主に礼は言った。
「春から東京に行きます。ありがとうございました。」
「がんばってください」
特に楽しみだったのは、2月上旬に発売になる決算特別号。前年の興行成績、配給会社の動向、そしてベストテンが掲載されているからだ。世代によって意見の相違もあるかもしれないが(ぴあテンやシティロード、そして映画芸術に重きをおく人もいるだろう)、しかし日本において最も権威のあるベストテンはキネ旬。なにしろ95回もやっているのである。
まあ、権威がありすぎて“映画界の官報”と呼ばれた時期もあったが、名編集長の白井佳夫氏がこの雑誌をとんでもなくとち狂った方向に誘導したために活性化。わたしが読み始めたのは白井編集長時代だったので、その意味ではラッキーだった。
さて、90回全史から5年ぶりに改訂されたこの本を、軽い気持ちで読み始めたがもう止まらない。でも800ページを超える大著なので読み終えるのに一週間かかってしまいました。小藤田千栄子さん(元副編集長)をはじめとした解説陣も豪華。えーと小藤田さんは元気なのかなとネットでチェック……うわ、2018年に亡くなっていたのかあ。
読み通すと様々なことがうかがえる。やはり年によって当たりはずれはあり、たとえば「男はつらいよ」が何位にいるかでその年のレベルが判断できたりもする。
また、不朽の名作と呼ばれるものも決してリアルタイムで評価され、ベストワンになっているわけではない。小津安二郎の「東京物語」だって第2位で、1位は今井正の「にごりえ」。この1953年はおそろしい年で、3位が溝口健二の「雨月物語」、5位が成瀬巳喜男の「あにいもうと」だったりするのだ。他の年なら確実にみんなベストワンだったろうに。
また、最も多くベストワンとなったのも小津や黒澤明ではなく、今井正。あの「七人の侍」にしても、再軍備礼賛映画として当時は批判されていたのである。そんなネタが満載。面白かったあ。久しぶりにお弁当箱的な量でした。ごちそうさま。
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