開巻、画面中央に
「1917年(大正6年のことだ)4月6日」
と字幕が入り、日付の部分が静かに消えて
「1917」
というタイトルになる。「1917 命をかけた伝令」は、このセンスに代表される周到な演出が満ちている。監督はサム・メンデス。デビュー作「アメリカン・ビューティー」でいきなりアカデミー監督賞をゲット(わたしは苦手な作品でした)、近年の007「スカイフォール」「スペクター」で冴えを見せた才人だ。
このあふれる才能が今回どこに向かったかというと、2時間の作品をワンカットで撮ったのである。正確に言うと、ワンカットで撮ったように見せたの。
かつてこの難行に挑んだのがアルフレッド・ヒッチコック。「ロープ」というジェームズ・スチュアート主演の映画でやっていました。
舞台劇の映画化とはいえ、ほんとうにワンカットで撮ったわけではなく(なにしろカメラのフィルムチェンジを10分ごとにやらなければならない時代だし)、カメラ前で人物を大写しにしたりしてしのいでいた(「1917」もその手は使っています)。相米慎二のように異様に長回しにこだわる監督もいて、有能な人は一度は夢に見るテクニックなんでしょう。
しかし問題は、そのワンカットがはたして実際に効果的なのか、だ。
カットを割ることによって観客の感情をコントロールできるのが映画というメディアなのに、その特質をわざわざ捨てるというのは……
でもサム・メンデスがこの手法を用いたのは、1600人の友軍の命を救うためにひたすらに走る伝令に、観客の緊張を解くことなく感情移入させたかったからだろう。そうでもなければ、セリフの長さに合わせてセットを組むなどという気が遠くなる作業までするものか。
佐々木蔵之介と濱田岳そっくりな凸凹コンビが、苦難に負けずにミッションを達成する……というこちらの予想をはるかにくつがえす展開。
コリン・ファース、ベネディクト・カンバーバッチ、マーク・ストロング、アンドリュー・スコットなど豪華な脇役たちにもびっくり。
人間の死体に不感症になっている人だって、馬や犬の死骸には戦争の残酷さを感じるはず。アカデミーで作品賞がとれなかったのは単に運の問題だろう。本命と目されていたのがこの作品だったことはしっかりおぼえておこう。傑作です。
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