ミステリーのおもしろさを説明するのはとてもむずかしい。
下手するとネタバレになってしまうからだ。
この小説は、編集者が人気探偵小説の最新作の原稿を読み始めるところからスタートする。
その探偵小説は、1950年代を舞台に、ドイツ人アティカス・ピュントを主人公にした
アガサ・クリスティを彷彿とさせるような正統派「フーダニット」だ。
これだけでも、ベルギー人探偵のエルキュール・ポワロを思い出してにやりとしてしまう。
だが、この作品はそんなに単純ではない。
探偵小説の作者、アラン・コンウェイと編集者たちを巻き込むもう一つの事件、
現代の殺人事件が起きるのだ。しかも、探偵小説は単なる作中作にとどまらない。
現代の事件でこれが重要な小道具として使われるのである。
なんというみごとな入れ子構造!
「本屋大賞」「このミステリーがすごい!」をはじめ、計5冠を達成したのもうなずける傑作だ。
なお、作者は小説を書くほかに、「刑事フォイル」や「名探偵ポワロ」の脚本家でもあった!
わたしはあとがきで初めてそれを知ったのだけど、読む前だったら間違いなく推進剤になったと思う。