2018年7月23日(月)
結果からいえば猛暑のピーク、熊谷が41.1℃を記録して高知四万十から王座奪還、東京都内も39℃越えの最悪の日になったが、教授会ならともかくTV収録をすっぽかすわけにはいかない。新木場のホームでぼんやり、というより朦朧と立ち尽くしていたら、白人の男女連れに何やら訊ねられた。珍しいぐらい英語の通じない相手なれど、「ディズニーランド?」と聞いたら激しくうなずいたから一件落着。イタリアはパレルモから来たのだそうだ。舞浜に着き、長身の男性は「アリガトウゴザイマス」、小柄な女性は「アリベデルチ」と言いながら弾んで降りて行った。
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客の減った車内でスマホのニュース画面を見ていたら目に入った。東洋経済新聞、フリーライター国末則子氏の署名記事である。
「フランス人がバカンスと旅行は別と考える訳 ~ バカンスではあえて不便な生活をする傾向も」
タイトルを見た途端に膝を打ち、それで十分ながら念のため一部転記。
フランスは、夏のバカンスシーズンの真っ盛り。フランス人は海辺へ出かけて寝そべったり、ぼっーと海を眺めたりするなどしてバカンスを過ごすことが多い。私は最近まで、フランス人が好む休暇の過ごし方といえば、「何もせず、のんびりすること」と思っていた。ところが、それだけではないことが次第にわかってきた。
「バカンス」はのんびり、「旅行」はぎっしり
たとえば、フランス人の知人家族は約1週間の日程で日本へ来て、ある日は明治神宮と原宿の辺りを観光し、渋谷のスクランブル交差点を見に行った。次の日から京都と奈良の寺社を見て回り、富士山を見るために河口湖へも日帰りした。毎日、予定がぎっしり詰まっていて、のんびりする暇はないようだった。日本人の観光旅行とあまり変わらない感じである。
休暇中なのに、慌ただしく過ごしていいのだろうか。日本をよく知るフランス人女性に疑問をぶつけてみた。
彼女が言うには、「あなたの知人は日本へ旅行をしに来たから、過密スケジュールだったのです。フランス人は、バカンスと旅行を区別して考える。日本人は、バカンスと旅行は同じだと思っているかもしれないけれど」
https://toyokeizai.net/articles/-/230171?display=b
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この区別は重要で、僕らの忘れがちなことを思い出させてくれる。バカンス vacances はもちろんラテン語由来、英語の vacant 「空の、空虚な」、vacancy 「空所、空虚」などと同根で、日常的な仕事も娯楽も放擲して心の中を空にするのが原義と思わる。
これとセットないし並行関係にあるのが「安息日」で、この日に日常の手の技を止めよというのは、とりもなおさず心と魂を空虚にせよとの意、空にしなければ、恵みを湛える器が器の用をなさないというのである。安息日は本来、小バカンスなのだ。バカンスが安息日の延長上にあると言ってもよい。フランス人がそういう言い方・考え方をするかどうかは知らないが。
安息日などと言っては日本の社会に通じないから、せいぜい「バカンス」が問われるようになると良い。土日を旅・娯楽に費やしているか、それともバカンスに充てているか。休暇の消化日数ではない、必要不可欠な「空虚」を回復し得ているかどうかを問う。
自分のことを言うなら、僕はせっかくの休暇を旅に充てる気がしない、バカンスばっかである。旅で学ぶことは比類なく大きいのだから、もう少しそちらに回せばいいのだが、ともかく物ぐさ、ナマケモノなのである。これはこれで要指導。
イタリア人は旅とバカンスを区別するだろうか?スペイン人は?この種のことでは、どうもラテン系の人々の挙動が気になる。さっきの2人はもちろん旅の途上、それとも頭を空っぽにしてくつろぐアクティブ・バカンス・・・そんなのあるかな。
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日本人の夏休みの多くは、旅にもバカンスにもなってないかもしれない。「お金貯めて3日泊まるのが夏休み/週刊誌読んでやってくれば数珠つなぎ」。中島みゆき「あたいの夏休み」は1986年の曲だが、昭和の昔話と嗤えるかどうか。
歌詞 http://j-lyric.net/artist/a000701/l004118.html
音源 https://www.youtube.com/watch?v=b0P7bUoFgKc
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