2019年1月25日(金)
各個撃破、という言葉はどのくらい使われているんだろうか?
僕がこの言葉を知ったのは、父の本棚にあった『統帥綱領』という軍事解説書からで、中学生時分に盗み読みしたのだが非常に面白い本だった。logistics という言葉が「兵站」をも意味する一事から知られるように、軍事の発想は平和を維持するためにこそ有用ということがある。
この本で、各個撃破の最大の成功例として挙げられていたのがナポレオンの軍隊である。フランス革命は近代史上に国民軍という怪物を登場させた。その動員力は王や貴族の私兵の集合体である他国の軍隊を桁違いに圧倒したが、それでも全ヨーロッパに大同団結されたら勝負にならない。
そこでナポレオンは戦力の迅速な移動と効果的な集中で局地的な数的優位を作り出し、諸国の軍隊を個別に打ち破る戦略をとって、それができた間は勝ち続けた、そういう話だったと思う。
それがどうしたって?
目の前に積みあがったタスクの山、どうしたってこなせる気がしないんですよ。そんな時は少々誇大的に構え、対仏大同盟に包囲された革命フランスに自分をなぞらえて、「各個撃破」と唱えつつひとつひとつやっつけるのね。その伝で、どうにか印刷教材の3章までと専門医更新手続きが終わった。2月末まではこれを続けていくしかない。
ブログ書くのを止めて、その時間を仕事にあてる?
それはダメ、フランス人に「勝ちたければワイン飲むな」というようなものだ。ワインの空き瓶を火炎瓶に仕立ててレジスタンスを続けたんだからね、あの人たちは。
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『ナポレオン秘話』ジョルジュ・ルノートル/大塚幸男訳(白水Uブックス)、1992年以来の愛読書である。世界史上稀有の英雄の魅力を17の秘話で綴ったものだが、一から十まで英雄を讃仰したものではない。とりわけエルバ島への途次 - 皇帝は囚人の如く護送連行されたのではない、かなり自由度の高いお忍び旅行といった体だったのだ - ある宿屋で相手が誰だか知らずにおかみが毒づく場面が忘れ難い。
「ではあんたはそんなに憎んでいるのか、あの皇帝を。あの人があんたに何をしたっていうのだね?」
とナポレオン。おかみの返答は、
「あいつがわたしに何をしたかって?あの人でなしが?わたしの息子や甥が死んだのはあいつのせいなんだよ。そしてあれほど多くの若い者たちが死んだのも。」(上掲書 P. 113)
覇業の美布を絞れば、無告の民の涙が滴り落ちる。常にそうしたものである。
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