章子さんとの出会いは十六、七年前でしょうか「老化損塾」ゆとりうむ句会」「岩戸句会」と名称は変わりましたが、毎月の句会を、毎回出席とはいかないものの、章子さん同様、楽しみに参加してきた私です。
作句に励むことは、たやすい事ではありませんが、四季ある故郷に住み、四季を愛でながら五感を働かせ、歳時記を繙き作句に親しむことは、掛替えのないひとときです。
「生きる証」の句作とありますが、折節詠まれた俳句、それは取りも直さず「 生きた証」の俳句と言えましょう。
この句を、伊藤章子さんの句と知り、以前「句会が何よりの拠所であり楽しみ」と話されていことを思い出しました。「俳句に人あり歴史あり」、春灯の季語が、作者の俳句に対する様々な想いを、更に深いものにしている、と思いました。佳吟と思い選句いたしました。体調を少し悪くされている章子さま。章子さまとの句会は愉しいひとときです。お元気になられて、またご一緒に俳句に興じましょう。
揺れ動く今日の心に春の風
名残雪ひとりにもある夕支度
人生の旅いま復路おぼろ月
借景の小島かき消す春時雨
明易しまだ使わずの今日がある
梅雨霧の谷という谷埋めつくす
百合の香の独りの闇に抱かれおり
生に飽き世に飽いたとて五月富士
いとおしむ生命のあかり朴の花
炎天下今をどこかに置き忘れ
磯宿へ一すじの道月見草
雲海の割れてつり舟通り過ぐ
がむしゃらに家業を継ぐや破れ蓮
友逝くや色なき風の中にいる
おほかたを生きてしまひぬ神無月
鰯焼く住所不定の猫の来て
仏壇に置く鬼灯と宝くじ
吊し柿長野の風と届きけり
思い出をすべて包みし紅葉山
笑う時一人と思ふ冬の夜
冬ざるる生き残るもの果つるもの
薄墨の衣まとひて山眠る
闇の夜に沈む山寺狐鳴く
世に飽いたとて寒月を愛でている
生と死のささやき交す冬銀河
(岩戸句会第五句集「何」より 伊藤章子)
ナルコユリ(鳴子百合)