私達夫婦は家を売った数年前から借家ぐらしをしている。
小さなその家には寝室が3つあり
一つは夫婦の寝室として使い、
もう一つの部屋は客が泊まる時に使ってもらい
普段は私の着替え室にし服や靴ほかを置いている。
その部屋の隣にある一番小さな部屋は
私の好きなものを並べ
フトアゴヒゲトカゲ 「フレディコ」のケージを置いている。
仕事から帰宅すると まず フレディコに会いにいく私が
その部屋の隣にあるゲストルームの前を通った時
ベッドの上に丸めて置かれていた青い布団がないのに気づいた。
それはこの部屋を使っていた居候君の布団だったので
「とうとう彼は出ていったんだろうか」 と思った私は
それを確かめる為
部屋の中に入ってクロゼットの中を点検すると
居候君の荷物は全てなくなっているのを知った。
居候君は2週間ほど前に友人の家に行くと言ってこの家を出たままだったけど
いくつかの荷物は置いたままだった。
「居候君 出ていったの?」 と
居間にいたバッキーに確かめると
それを知らなかったバッキーは驚いた顔をして
居候君が使っていたゲストルームに行った。
「あいつはまた一つ 俺の信頼を失った。」
って 暫くしてからバッキーが言った。
置き手紙もなく 荷物を取りに来る連絡も受け取らなかったのは
ちょっと寂しかったけど
私の中の居候君は前と変わりない。
バッキーが居候君に対して持つ想いより
私のそれが薄いからかも知れないけど
今回のことで彼に裏切られたとも何とも感じない。
荷物を持っていってくれたことで
私がまた自分の着替え室としてこの部屋を使えるようになったのを
逆に喜んでもいる。
でも
居場所に困ったら
何時でもこの家を使ってくれればいいと思う気持ちは
以前と変わりない。
帽子が好きだけど
似合わないことから
被ることなくタンスの肥やしになった物がいくつもある。
その中の一つは黒無地と花柄のリバーシブルのバケットハット。
花柄が気に入って買ったんだけど
頭の大きな私には ちょっときつくて被ることなく数年が経っていた。
ゲストルームのクロゼットにあったその帽子を見た居候君が
気に入ったように話したので
「居候君が被ったほうが似合ってるから
あげるよ。私にはちょっときついんだ。」
そう彼に話したその帽子を、
今回、居候君が持っていってくれたのが分かって嬉しかった。
居候君の側にあるその帽子を想像していると
彼との縁が切れていないようなそんな思いになるから。
ぽちっとね