その時の事を思い出していた私だが、お寺に遊びに来てはいけなかったのだろうか、そんな疑問が頭をもたげて来た。
「お寺に遊びに来たら駄目なの?。」
「駄目なんですか、だ。言葉もよく知らないのだな。」
とお寺さんは手厳しい。
「皆3歳で寺の門を潜るんだ。」あなたの様に1つ鯖を読むからこういう事になるんだ。と、その後は、皆昔通り数え歳で回っている物を、あんたは1年遅れている、だからこうなるんだ。外れるんだ。真面目な者達からよく思われていない。等々、私には訳の分らない苦言が並べられた。
「大体、何で4歳になってから入門して来たんだ。」
そう言われても、事情がさっぱり分からない私には何とも答えようが無かった。
「事情が分からないあなたでは答えられないのでしょう。」
お寺さんの言う通りである。『え!。』と私は思った。
「何故私の考えていた事が分かったの?。」
初めて尊敬の眼でまじまじと住職さんを見上げると、お坊さんってやっぱり偉いんだなと私は思った。そして父の言った通りだと感心した。
何しろ常日頃の父の言い分では、「世の中で立派で偉いのがお坊さんだ、お寺に通っていればお前も立派な人になれるんだ。」だった。これは、本当にそうらしいと私はこの時思った。何しろ目の前の人はお坊さん、お坊さんは私の思っている事が分かるんだから、と。
「やっぱりお坊さんって偉いんだね。」
私はこう尊敬の言葉をかけると、それは何故かと住職さんに問われるままに、常日頃自分の父が口癖のようにしている言葉を並べた。父は仏教に対して愛着が深かった。
「成程、これで分かった。」
と、住職さんは膝を打つと、
「あなたの入門を許可しましょう。」
と、決定打の様に決意の一言を発した。そして、普通は私のこの言葉があって後に初めてこの寺の門が潜れるのだよと言うと、まぁそんな事はこの際もういい。あなたは知らなかったのだから。それよりと、本堂の戸が開いている時はこの寺に入ってはいけない。そうなっているんだ。あなたはこれも知らなかったようだから、今、私が直々に教えておいて上げます。そう言うと、じゃあこれで話は済んだからと、住職さんはくるりと私に背を向けてしまった。
この様な相手の所作への対応も、勿論私には経験が無く全く知識も無かった。私はまだ何か話が続くのだろうか?、これで行ってよいのだろうかと、住職さんの背後でにっちもさっちも身動き出来ずに畏まっていた。
やや間があって、振り返った住職さんは、
「話は済んだよ、済んだんだよ。おや知らないの?。済んだと言われたらもう行っていいんだよ。」
と私がその場に立ち止まったまま居残っているのが如何にも解せないという風に言うと、「まだ何か私に取り入りたい事でも…、」と言い掛けて、にこりとした。
「そうか、ほんとに何も知らないんだな。」
と爽やかに明るく頷くと、私の仲良しの名前を2、3人聞き出し、その内の1人に目星を付けると、この様に私があなたと直に話せる事は殆ど無いだろうから、彼をあなたへの伝令役にしておくからねと言った。
「じゃあさようなら。」
今日は本堂の戸が開いているんだ。戸が開いている時はこの寺は仕事中なんだ。寺で遊べないよ。もう帰りなさい。こう言うと住職さんは私を寺から送り出してくれた。