私と母の不協和音は、今日の祖母の意見を聞かされるという一件が有ってから益々増した感があった。今、母と話しをした場面からも、私はその事を強く感じた。手を洗い終えた私は何時もの様に直ぐ居間に戻らなかった。さっきの今で、母とこれ以上私は顔を合わせたく無かったのだ。そこで私の足は手拭きの前で躊躇する内に、居間や縁側と反対方向の家の裏口へと歩を取った。
家は裏にも庭が有る。有るといっても猫の額程の狭さで、家並みの陰になり日陰の多い庭だった。美しい花など咲かず、苔の緑やドクダミ等の雑草、むき出しの土など眺めるだけで私は所在が無かった。
家の勝手へと続く土間への折口に立った私は、また外へ遊びに出ようかと思った。が、果たして、この勝手口に私の履物は無かった。先程外出から帰り、玄関で履き物を脱いだので私の履物は玄関に有るのだ。
『玄関から取ってこようかな。』
私はそう思ったが、縁側や居間を通らなければならない。母の姿を見たり、居間の出口で祖母からまた話し掛けられるかもしれない。そう思うと、私は玄関に戻る事も気が進まなかった。どちらからであれ、またぞろ何か言われた日には、もう今日はうんざりだった。大体、玄関に戻るなら玄関から外に出た方が良い、と私は考えた。
そんなこんなを考えながら暫く裏口へ降りる戸口に手を掛け、その場から外を眺め立ち竦んだ儘の私だったが、退屈だ。私に取って目安めになる風景等が裏庭に無かったからだ。本当に所在が無かった。
こうなると、大人に何かといちゃもんを付けられてもよい、家の中に戻り、2階に迄上がって行って一休みしようと思い立った。家の2階には両親と私の寝所にしている部屋があった。『多分今も布団が敷いた儘だろう。そこに潜り込んで一眠りでもしよう。』私は決意した。
この頃、昼寝は活発な外遊びをするようになってからあまり取らなくなった私だった。が、久しぶりにその日課を思い出した。この日課を思い出すと、私は自分が疲労している事に気付いた。眠いのだ。寝いならゆっくり寝た方が良いと判断した。