Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 140

2020-01-21 17:21:24 | 日記

 私と母の不協和音は、今日の祖母の意見を聞かされるという一件が有ってから益々増した感があった。今、母と話しをした場面からも、私はその事を強く感じた。手を洗い終えた私は何時もの様に直ぐ居間に戻らなかった。さっきの今で、母とこれ以上私は顔を合わせたく無かったのだ。そこで私の足は手拭きの前で躊躇する内に、居間や縁側と反対方向の家の裏口へと歩を取った。

 家は裏にも庭が有る。有るといっても猫の額程の狭さで、家並みの陰になり日陰の多い庭だった。美しい花など咲かず、苔の緑やドクダミ等の雑草、むき出しの土など眺めるだけで私は所在が無かった。

 家の勝手へと続く土間への折口に立った私は、また外へ遊びに出ようかと思った。が、果たして、この勝手口に私の履物は無かった。先程外出から帰り、玄関で履き物を脱いだので私の履物は玄関に有るのだ。

 『玄関から取ってこようかな。』

私はそう思ったが、縁側や居間を通らなければならない。母の姿を見たり、居間の出口で祖母からまた話し掛けられるかもしれない。そう思うと、私は玄関に戻る事も気が進まなかった。どちらからであれ、またぞろ何か言われた日には、もう今日はうんざりだった。大体、玄関に戻るなら玄関から外に出た方が良い、と私は考えた。

 そんなこんなを考えながら暫く裏口へ降りる戸口に手を掛け、その場から外を眺め立ち竦んだ儘の私だったが、退屈だ。私に取って目安めになる風景等が裏庭に無かったからだ。本当に所在が無かった。

 こうなると、大人に何かといちゃもんを付けられてもよい、家の中に戻り、2階に迄上がって行って一休みしようと思い立った。家の2階には両親と私の寝所にしている部屋があった。『多分今も布団が敷いた儘だろう。そこに潜り込んで一眠りでもしよう。』私は決意した。

 この頃、昼寝は活発な外遊びをするようになってからあまり取らなくなった私だった。が、久しぶりにその日課を思い出した。この日課を思い出すと、私は自分が疲労している事に気付いた。眠いのだ。寝いならゆっくり寝た方が良いと判断した。


うの華 139

2020-01-21 14:45:42 | 日記

 「え、えっと…。」

私は口ごもった。

 別に、と言いつつ私は目の前の母から目を移し、ガラス戸の向こう側、中庭へと視線を外した。そして、庭を見ていると答えた。この私の答えに、母は俯いたまま小さな溜息を吐いた。この母の溜息を聞くと、彼女は私が彼女と顔を合わせたく無かった事を悟ったようだ、と私は思った。すると、

「今、お前と話をしたく無くてね。」

と母が言った。私はそんな母に、お仕事中だものねぇと如何にも的外れな言葉を返した。彼女は別にそうじゃ無いけど、と言い掛けたが、不意によいと掛け声をかけて腰を起こすと床に正座した。彼女はきちんと私の方へ顔を向けた。じいっと私の顔を見つめた彼女は、

「お前の方こそ私と会いたく無かったんじゃないのかい。」

と確信を衝いて来た。そう言った母は何だかしんみりとして元気が無かった。

「お前がそこに来た時から、私にはお前が見えていたんだよ。」

そうも母が言うので、やっぱりねと私は思った。何時もの彼女のおふざけは何処へやら、今日の母は真面目に私と向き合う気らしい、私はそう感じた。

 母が縁側の奥にいて、振り返った時目が合った様に感じたが、やはりあの時母は私に気付いていたのだ。今迄知らんぷりして床を磨いて、見て見ぬふりをした儘で、彼女は私がこの場を通り過ぎるのを待ち、私の事を遣り過ごしたかったのだろう。それがここに何時まで私がもまごまごしていたものだから、彼女の方がしびれを切らして私に話し掛けて来たのだ。

 何時に無く生真面目な母の様子に、私も真摯になってそうなのかと口に出して尋ねると、とたんに母の顔は曇り不機嫌になった。

「分かっているなら、そうと言わずにさっさとこの場から姿を消しておくれ。」

「本とに、お前って嫌な子なんだから。」

と、彼女はぶつぶつ言い、不満そうな視線をじいっとこちらに向けた儘でいた。

 「私、いなくなった方がいいの?。」

私はそう彼女に確認を取った。そうなんだねと言うと、そうだよと彼女は言った。

「大体お前は、話をしたく無いなら無いで、如何してここ迄やって来るんだい。子供らしくない。嫌なら嫌でしなければいいのに。」

そう言った母の目は不機嫌から気の毒そうな憐れみの目付きに変わった。私はここ迄来た生真面目な自分を母が可愛そうだと思い、同情しているのだと感じたが、この時の私には嬉しくなかった。どちらかと言うと私の自尊心は傷ついた。

 「ここに私が来ると分かっているのに、途中で引き返して来なかったら、それこそお母さん、嫌な気持ちになるでしょう。」

私という子供に嫌われていると分かるでしょう。そう私が言うと、母はややハッとした感じで考え込んでいたが、一寸嫌味な微笑みを浮かべた。

「お前、じゃあ私の為にここ迄やって来たんだね。」

何だか意味ありげに笑顔でそう言う母に、私の中の天邪鬼が頭をもたげた。

 「子供に嫌われる母親が可愛そうかなと思って、…来ただけよ。」

「お母さんが可愛そうでね。」

そう私が言い、付け足すと、母は明らかに気分を害した。むっすりとして俯くと、その儘無言になった。

 この場の母子の気まずい雰囲気に、私はそれ迄動けずにいた体、自身の足を思い切って動かしてみた。

『動くかしら?。』

私は内心心配だったが、私の足は普通に軽く動き出した。よし!、空かさず私は先程の母の指図を実行した。彼女が希望した通りその場から姿を消した。素早く私は廊下を進み、台所へと達すると、洗面台に立って蛇口を捻った。私はそこで、漸く外出帰りの自分の手を綺麗に洗う事が出来てスッキリした気分になった。