Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 133

2020-01-08 17:01:50 | 日記

 たたたたた…。と、調子よく私が坂を駆け上がると、もう少しで平らな頂上に届きそうな場所に差し掛かったところで、如何言う訳か私の走る速度が急激に落ちた。そして直ぐに私の足がストップしてそれ以上、上の位置に上がれ無くなってしまった。上がれ無いどころか、私の体は後ろから誰かに真っすぐに引っ張られている様な感じになった。私は今にも頭から仰向けにひっくり返りそうになった。しかもグイっと来た力は私の頭に掛かり、頭から先に私の上半身はコロリとバック転しそうな雰囲気になった。この時の私は弾みよく、もんどり打って今来た坂道を転がり落ちて行きそうな気配を感じていた。

『危険!』

私の心の中の誰かが叫んでいた。『このままでは危ない!。』私は如何したらよいか分からずに、兎に角頭から後ろに倒れてはいけないという事だけが分かっていた。私は内心非常に焦った。

 自分の後ろに存在している下り坂に向かってひっくり返ってはいけない!。下り坂という場所で、自身の身が転がるという危険を、私自身がこれまでの体験で既に経験済みとなっていた。私は、何時も遊びに行く寺の境内に続く下り坂で、何思う所無く下りる内に、否応なく自身の足の速度が増して行き、抗う術なく遂には勢い余って顔から転がり落ち、頬は勿論目の周囲に至るまで見事にそうと分かる様な擦り傷を拵えたのだ。私はその傷からの痛さと、転がって坂に身を打ち付けた時の衝撃から受けた精神的な痛手を、相当な嫌悪感として痛感し懲りていた。

 『後ろは下りだ。』

今にも後方へひっくり返りそうになりながら焦る中で、私は実際に見て確認するまでも無い事だったが後方をちらりと見やった。すると、我知らずの内に私の上半身は、私の頭に釣られるようにくるりと後方へと身を反らして来た。私の半身は坂に対して横向きになった。これが幸いした。上半身の動きに合わせて下半身も横を向き掛け、足も体の動きを受け止める為にそれに続いて後方横へと自然にポンと出て来た。不思議と思う間もなく、私の身は坂道に合わせる様にしてくるりくるりとと下り坂を下りて行った。

 坂がそう高くなかったので、坂の麓に至る頃には回転速度も緩やかな物になり、私は自力で体の動きを抑えられる様になっていた。静止して、気が付くと私は元いた場所、坂に駆け出す前のスタートの位置まで戻って来ていた。私の立場は恰も振出しに戻った様な格好になった。

「スタート地点だ!。」

私は驚いて言葉を発した。

 ボードゲームや双六の様な架空の遊びじゃ無く、現実の遊びでさえ、振出しに戻るという事が有るのだ!。そして気付くと、私が将によしと自分に気合を入れて、スタートを準備した時の状態の儘、その形その儘に私の姿勢は出来上がっていた。私は中空に振り合上げられた自身の右手の握り拳を見詰めてみた。拳までもがスタート地点の形その儘だった。私の手は小さく固く握られている。この事に私はこれは!、と再度驚いた。映写機のフイルムを巻き戻したような感じでは無いか。

 しかし何か違った事が有るはずだ。そうで無いと変では無いか?。私は思った。確かに登りが直進だったのに対して、下りは回転しながら降りて来たのだから、その点は違っていた。しかし私は未だこの事には気付いていなかった。それほどに気が動転していて、何より怪我の無かった事に安堵の溜息を吐いた。この目の前の家のアプローチの1地点に立ちはだかりながら私は酷く疲れ切っていた。