それですよ、それ。お義父さん、この機会にとっちめてやりましょうよ、あの子。嫁は息巻いた。
「この儘では下の子が不憫で。」
そうね、可哀想に。気の毒だったわ、あの子。嫁と彼女の娘逹は、口々に舅で有り祖父で有る彼に訴えた。
「あの子はあの話を未だ聞いていないんでしょう。」
嫁が口にすると、舅はそうだと言う様に黙った儘でコクリと頷いた。
「何時迄も自分ばかりが男の子、この一家の惣領息子のつもりでいて。そんなあの子の大きな態度も、この辺で大概にしてもらわないと。」
よろしいでしょう、お義父さん、もうあの子があの事を知っても。嫁は続けた。世間は勿論、この子達だってもう疾うに知っているという事実ですよ。
「よろしいですね。」
そう彼女は念を押すように繰り返すと、舅に事の確認をする為に彼の目の奥をじいっと覗き込んだ。
舅はやや逡巡した。その気配の中彼はただ俯くと無言で頷いた。これは彼が嫁の言葉に同意し、彼女のこれから仕様とする事に彼が許可を与えた事を示唆していた。嫁は舅のこの態度を見て取ると、すっくと椅子から立ち上がった。さぁ、行きましょう。もう良い頃合いでしょう。彼女は自分の子供達を促すと、店の主人に食事の代金を払うべく、彼女の財布を入れてある自分の懐に手を伸ばした。
「ああ、いいよ、いいよ。」
代金は私が持っておくから。透かさず彼女に言葉を掛けた舅に、まぁ、申し訳ないと嫁も素直に応じた。
では、私逹これから参ります。行ってきます。頑張ってくるね、お祖父ちゃん。ごゆっくりと、彼女達は口々に彼に言葉を掛けると、皆で連れ立ってさっさと食堂を後にした。
「大した御器量でやすなぁ、旦那さんの息子さんのご内儀連は。」
何方もそうでやすなぁと、主人は客の男性に声を掛けた。客はなぁに、それ程でも無いよとその強張っていた表情を緩めて店主に応えた。
「聞こえてきたお話の様子では、あちらのお子さん達は未だなんですな。」
未だ何もご存知じゃ無いんですね、と店主は客に語り掛ける。ああと客は頷いた。下の子は会った事がある。おや、そうなんでと店主が受けると、意味は分からなかったようだ、見ただけだよ。お互いにね。と、初老の男性客は答えた。