そんな元気を失くした嫁に舅は微笑んだ。彼もまた、この長男の嫁が心根の優しい女性である事をよく理解していた。彼女は家族思いであり気丈夫な良い嫁だ。彼女の気持ちを通してやりたいとも思う彼だった。
「追々、」
彼は言った。「追々という事でいいじゃないか。」「今すぐという物でも無いだろう。」。そう言うと、彼は嫁の機嫌を取る様に優しい目をして微笑んだ。
彼女は、何時もの彼女なら、ここで舅の立場や気持ちを考えて頷き、自分の感情を抑えるとしおらしく引き下がる所だった。が、今日の彼女には色々と有り過ぎた様だ。気持ちが昂っていたのだろう、彼女は胸に湧き上がる反骨精神その儘に、頑なな思いに支配されるとグッと目を閉じて首を横に振った。
「いいえ、今日中に決着をつけます。」
今日引導を渡してやります。お義父さんは出来ないでしょうから、私が代わって致します。きっぱりとした口調で彼女は目の前の舅に言い放った。舅は意外そうだった。が、そう驚いた様子では無かった。
「驚いたね。」
口ではそう言っておいて、彼は嫁に不承不承の笑顔を見せると言った。
「今日かい?、如何かなぁ。」
あれに今日決着がつくかしら。私でも、私から言っても…。ここで彼は考え込んで口を閉じた。
「多分無理だろう。」
つかないよ。決着はねと、彼は顔を曇らせた。永久にね。そう彼は小さく口にすると更に顔を曇らせた。
嫁の方は、舅の言う意味がよく分からなかった。口でこうと言うものを、如何して向こうが理解出来無い訳があるだろう。そう思うと舅の言いたい事が全く理解出来無いのだ。『向こうが幼いからか!。』、ハッと彼女は思い付いた。
「未だ理解するには小さいお子さんなんでしょうか?。」
そうなら話は後日にしましょう。もう少しあの子が大きくなってから…。言いかけた彼女の言葉を遮って、舅は言った。
「違うよ、もう理解出来る歳だし、この話を理解出来る子の筈だ。」
実際、ああやって家にいるんだからね。居座っているんだよ。問題は違う所に有る。根が深いんだよ。舅は暗い顔をして彼の目を伏せた。
「子供の話はあれも知ら無いだろう。多分ね。確かだ。だが、もう一方の話は知っているだろう。暗黙の了解が向こうにもあるんだよ。」
「お前さん、姉さん、もう一つの話も今日する気だったんじゃないよね?。」
舅は嫁の心中を探る様に彼女の目を見詰めた。そうして彼はその奥の奥をジーッと覗き込んで来る気配だ。