口を尖らせて彼女は言った。
「そう思うでしょ。」
お姉さん。と、彼女は如何にも不満気に首を振り振り、最後には口を尖らせて姉に同意を求めた。姉はそれに対して「別に。」と控えめに彼女に応じた。
そうは思わないけどね。一言いうなら、お母さんはお父さんのお嫁さんよ、お祖父ちゃんのお嫁さんには、別の女性がいるでしょう。「あちらのお家にね。」と、彼女は自分の祖父の家の方向へと振り返って、彼女の面を家の方向へ向けた。その家の中には多分祖母がいるのだ。『今頃祖父母の家の中は如何なっているのだろうか?。』彼女はふと思った。
そうして顔の向きを元に戻すと、姉はまだ唇が飛び出ている妹の顔を目に留め、言った。
「口を戻しなさい、みっともないですよ。」
それは如何にもどっしりと落ち着いた声音で、姉は興奮した妹と違い、取り乱した様子が微塵も感じられ無かった。
「ははは、やぁ、お姉さんは成長したね。」
彼女達の祖父が言った。彼は頬を染め、恥じらった様な笑顔を姉で有る孫娘の方へ向けた。お前ももう女学生か、昔なら女学校だ。等と、中学生になった孫娘に目を細め、大きくなったなぁ、別嬪になって、本当に娘らしくなったぞと、褒めそやした。
「やっぱりやわ。」、またもや妹の方が不満を口にした。「お母さんの次は姉さんなんだから。」。彼女は憤懣やる方ないという様に目を見開くと「何時も2人でお祖父ちゃんを取っちゃうんだから。」と目を赤くした。彼女達の母はほうっと溜息を付き視線を落とし、姉の方もまたかという渋い顔で首を捻ると、妹から顔と視線を逸らせた。
祖父の方は、そんな嫁と孫の様子をちろちろと暫し観察していたが、
「まぁまぁ、お前も相変わらずだね。」
お前さんも益々お茶目になって、可愛らしさが一層増した様子だ。彼はそう妹の方に声を掛けると、彼の注意を女性三方向に向けながら、母にはやれやれ大変だ、姉には上々よいよいと、妹へはほいほい抱っこでもと、彼1人で女性三者三様に、それぞれのご機嫌伺いをして皆を労うのだった。
あれやこれやで場が和み、母娘共に機嫌が直ったところで、思いついた様に姉妹の姉娘は言った。
「まだ行かなくていいの?。」
あの子もう来てるんじゃ無いのかな。そう自分の母を促してみる。母もハッとして食堂の時計に目をやった。時刻は既に午後の1時を回っていた。ああと、彼女は時計の文字盤を見詰めながら呟いた。
『うふ、タイミングよく声掛け出来たわね。』、姉娘の方はそう得意に思ったのだが、彼女は表面はさりげなさを装っていた。そうしながらも彼女は内心満面の笑みを浮かべていた。しかし、姉娘の予想に反して、母である彼女は椅子から腰を上げる気配がなかった。それどころか、よりどっしりと食堂内の椅子に腰を落ち着けると、彼女は姿勢を正し暫し寡黙になっていた。
「遅れついでだから。」
誰に言うともなく独り言の様にこう彼女は言った。
「遅れついでだから、お義父さんのお話を最後まで伺って置きたいですわね。」
面と向かって、姿勢を正した彼女は目の前の義理の父にハッキリと分かる様にこの言葉を掛けた。