Jun日記(さと さとみの世界)

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うの華3 170

2021-06-09 17:11:16 | 日記
 口から出た言葉に気付いて、彼女はハッとしたが、既に自分の顔色が暗くなっている事に思い至ると、彼女は改めて自身の表面を取り繕おうとはしなかった。今の言葉とこれまでの自身の様子から、目の前にいる舅は自分の心を読んでいる事だろう。そう思うと彼女は、それと無く視線を上げ舅の瞳を見詰めた。

 じっと自分の目を見詰めて来る彼の目は、やはり全てを見透かすように落ち着いていた。一族の重鎮の目だと彼女は思った。彼の瞳は細やかで冷たい光をその底に含んでいた。冷え冷えとした奥深い色を呈して、彼の息子の嫁という彼女を、人間を見詰めて来るのだ。

『第三者、他人の目だ。』

そう彼女は感じた。

 『駄目だわ。この舅とも、…もう駄目だと思う。』

この時、彼女の心にもひんやりと澄んだ塊が沈んで来た。彼女の内にも彼が親身な身内では無いという拘り、目の前の舅に対して隔たりという分別や、感情の抑制を持たらした。

『冷静沈着、ここは返答を急がない方が得策だわ。』

彼女は判断した。自身の為にも家族の為にも、より良い方向に進まなければ。彼女は考えていた。

 その事に関しては舅の言った通りだ。彼女は思った。自由に、幸福に、家族の幸福を考える。何も案じずに、夫のおかしな弟の事も…

『そうか!。』

突如として彼女は思い至った。舅が先程言った言葉の意味だ!。自分達の家庭、自分と娘達の家族に夫も含まれているのだ。彼女はハッと悟った。

 舅は私達、自分の長男一家に、この儘外で自由に暮らせというのだ。何も案じずに、夫なら弟、私からは義弟、娘達にすると叔父に当たる、奇行のある四郎について関わりなく、憂う事無く、無事平穏に暮らせというのだ。幸福に。

「幸福。幸福に…。」

物思う彼女はその視線を宙に浮かせた。何て明るく幸せに満ちた自分と家族の未来だろう。ふわふわと風船の様に、晴れ渡った空に浮き立つ様な笑顔で、白光色の中自分の笑んだ顔が浮かんで来る。思わず彼女の口元が緩みその瞳は希望に溢れて夢見る色に変わった。

 『だが、だがだ。…。』

彼女は再び顔を曇らせて視線を落とした。別の考えが彼女の脳裏に浮かんだのだ。
 

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