それは本当に本堂なのかと、父は蛍さんに問いかけました。
蛍さんはそうだよと言って、本堂にご本尊や畳があった事、父とそっくりな人に出会った事を話します。
ここで父と1人の男の人が目配せして頷き合いました。そして、頷いた男の人は、他にもう1人いる男の人に、
「君ね、君も一寸向こうの様子が如何なっているか見て来てくれないかな。」
と、本堂の様子を見に行ってくれるように頼みました。その人を自分や蛍さんや父の傍から遠ざける為でした。
頼まれた男の人がそれではと行ってしまうと、残った2人の男性は又でしょうか、又だねと、話し始めました。
「今度はどんな奴が現れたんでしょうか。」
「さあ」
と蛍さんの父達は、ひそひそと声を潜めて相談するように何か話していました。
「前回は煩悩の塊のようなあなたでしたな。」
「いやあ、我ながらあいつはなかなか参考になりましたよ。それに面白かったですよ、私にしてみると。」
2人はそんな事を言ったりしています。そしてフフフと父は笑い、横目で蛍さんを見ると、
それで、と、そのお父さんに似た男の人は何処に行ったんだいと尋ねました。
蛍さんは父が、その男の人が何処かへ行ったという事を知っているという事に驚きました。
「お父さん、その男の人が何処かへ行ったって如何して分かったの?」
そう聞いてみます。
「それは分かるよ。大抵何処かへ行くからね、他所の世界から来た人というのは。」
父は大変真顔になると、如何にも忌々しいという風にそう言うのでした。
「他所から来た奴は、この世界に興味があって興味があって仕様が無いんだよ。何しろ他所の世界のスパイなんだからね。」
そうですなと、父の横にいる男の人も真顔で確信を持ったように頷きます。
蛍さんは何だか面白い事になって来たなと思いました。
何しろ、父に似た人に対して、父もこの男の人も心良く思っていないという気配が、彼女にはよく伝わって来たからでした。
『あの嫌な感じのお父さんに似た人が、何だか酷い目に遭いそうだ。』
そう感じると、彼女は内心小気味よく思うのでした。
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