「ああ言うんだわ。」
私の目の前にしゃがんでいた顔見知りの女の子が、指導者の子から顔を背けるようにして俯くと、そう小声で呟くのが聞こえました。この頃の私はというと、まだこの騒ぎで何があったのか全く事情が呑み込めない程の幼さでした。「そうだよね、ああやって逃げてしまった方が利口だよね。」こんな嫌な場所で、何時までもぐずぐずしているなんて馬鹿だよね。そう私は小声でその子に同調してみせるのでした。今この嫌な場所から逃げ出して行ったのだという子供達の心理は分かっても、幼い男女の機微など全然理解できない年頃だったのです。
「まっ、たまにはこんな事もあるさ。」
遠ざかって行く喧騒が消えた頃、何時の間にか皆に背を向けていた指導者の子は、一呼吸置いた後に落ち着いた感じで言いました。それは自分自身にも言い聞かせる言葉でした。向こうの場所から男の子の泣き声や叫び声が聞こえ、この場から去った子等の事情が伝わってくるにつれ、この子供達のリーダー格は、皆の手前この場をどう納めたらよいかと内心慌てふためいていたのです。グループの中の聡い子に自分の顔色を読まれ無い為、皆に背を向けてこの場をどう納めたらよいかと必死に考え込んでいました。
『落ち着こう、兎に角この場は落ち着いて…』そう思い、威厳威厳とリーダー然としてこう低めに声を出したのでした。そして微笑むと如何にもあっさりした調子で「何時もこうなるとは限らないからね。」と、顔はあくまで笑顔に保ち、皆に自分の面を向けたのでした。
「皆から外れない方がいいんだよ。」
このグループのリーダーは再度注意するのでした。そうして、今帰って行った子達は何処の子かと、知っている子はいないかと尋ねてみるのでした。
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