Jun日記(さと さとみの世界)

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うの華 184

2020-03-18 10:44:00 | 日記

 父のこの説明は、私には理解し辛い所が多々あった。名前で分かるという生まれ順は、いちにいさん…と、父から教えられるとそうかなと、曖昧なまでも何となく理解出来たが、学校を卒業?養子?、何故家から他所へ行くと、その家では行った人の事を話さなくなるのか?、不治の病?タブー?。知らない言葉がオンパレードだ、到底私には想像が付かなかった、付かない事が多過ぎた。私は父の前で困った顔をしたまま座り込んでいた。

 そんな私に、父は数字の話の次に、名前の由来について繰り返し説明していたが、学校や卒業の説明になると段々と面倒になったらしい。学校、勉強する所、そこを卒業してだ。卒業とは?。その学校を終わる時だ。終わる時とは、行かなくなるというか…。いや、行かなくなる事だ、卒業、その時に式をしたりする。しきって、何?。云々。

 到頭父は、

「とにかく五郎という人間は昔この家に居た者だ。今は居なくなった人だ。」

私の方ではそれだけ知っていればいいと言って、父はこの話を切り上げた。

 父が立ち上がって行ってしまうと、私は父の話を繰り返し頭の中でまとめてみた。分からない所は相変わらず分からなかったが、それはもういいやと、兎に角、五郎という人はこの家の人で、もう亡くなっていて、父の兄弟で弟だという事ははっきり理解出来た。

 それから数日して、私が家に居ると、外から帰り玄関から入って来た祖母の顔色が冴えなかった。何だか沈み込んでいて暗い。そんな祖母が私の顔に目を留めると、ひょっという感じで

「お前、やっぱり何かパンのお店で仕出かしたんだろう。」

と言う。勿論私は何もしていないと祖母に主張した。

「ほんとかい?。」

なら如何して、向こうさんは皆あんなに変わってしまったんだろう。そう祖母は零した。そして玄関の敷居に腰を掛けたまま、そのまま家の中には入らずにぼんやりと玄関の窓外の往来を眺め出した。

 そんな祖母の放心した様子に、私はもしかしたらと考えた。私の言った事が、この前父に、何故五郎さんの事を聞く事になったのかという説明が、煙草屋さんの家での出来事の詳細をと、私が出来るだけ詳しく話した話を、父が祖母に話す時に、ありのままにきちんと伝えられなかったのでは無いかと考えた。

 そこで、お祖母ちゃんと、私は祖母に語り掛けた。私が煙草屋さんでこの前パンを貰った時に、…。

 私は順に詳しく誰が如何言ったか、如何受けてどう答えたか、その言葉の儘にありのままにそれぞれの口調を真似ると、その時の場面を思い浮かべながら出来る限り子細に話した。

 祖母は子供の言う事と、最初気乗りしない様子で聞いていたが、話の中に父の今は亡き兄弟の名前が登場し出すと、目を見開いて私の顔を見詰めだした。その後はジロジロと私の顔の上下を眺め出した。私の話も後半に入る頃、彼女は急に私から視線を外し、そっぽを向くと、ふんと言った。そんな彼女の気配からは気に食わない様という様子が感じられた。

 私には祖母の不機嫌になった理由が分からなかった。出来るだけ詳しくその場の事を表現したつもりだった。祖母は何が気に食わないというのだろうか。

 「人様の子供の事を、」

彼女は誰に言うとなく玄関に向かって言った。

「大きなお世話だね。」

他人に何が分かるというんだい。実の子の親の方が、余程子供の事は何でも分かっているという物だ。そう言うと、祖母は玄関に立ち上がって向きを変えると、敷居の上に上がり私の前を素通りして奥の部屋へと消えて行った。

 そんな彼女の後ろ姿を見送って、玄関に残った私は、自分の話が理解されなかったという様な物憂い気分の儘でいたが、明るい往来の光に誘われるように窓外の風景を眺め出した。

 

                      うの華 2、 終わり         

 


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