さて、大トカゲの観察ドームに戻ります。
私はガラス製のドームを覗きながらぐるぐる回転して地上のトカゲ達の様子を観察していました。遠くにいる物は小さく全体像が見えます。そしくるっと頭を回すと、最初の位置から180度の反対側、自分の頭があった位置を見ました。一瞬真っ暗で何もない世界、視界に何も映らなくなり不思議に感じました。透明なドームのはずが真っ暗です。日食でもあるまいし、と、狐につままれたような感じでした。
『おや?』何だろうと思う間も無く、青空の破片や、何かのずり動く影を感じたと思ったら、いきなりガバッと!顔に食らいつかれました。それは分かりました。
一瞬!、キャー!またはギャーっと叫びそうになり私は息を飲みました。驚愕と恐怖の戦慄を覚え、一瞬稲妻のような衝撃が背筋を走ったのですが、如何いう訳か叫び声は口から出て行かず、そのまま声は口の中に留まりました。驚きました、全くの完璧な恐怖体験でした。私はドームの外にいた大トカゲに大きな口でバクリと勢いよく飛びかかられて、予期せぬ無防備な自身の顔に食いつかれたのです。それは頭というべきかもしれません。
ドームに覆いかぶさる黒い影が、トカゲの大きな口の内側だと気付くのに一瞬の間がありましたが、身を返した大トカゲが再び私に勢いよく飛びかかって来て、顔にガブっと食いついたので、呑気な私にも事の事情が緊急な事態だと呑み込めました。どういう訳か恐怖の叫び声も飲み込みました。そしてトカゲと私の間にガラスドームがあることを思い出すと、私はほっと溜息を洩らした事でしょう。安堵しました。ドキドキと早鐘のように打つ心臓に手をやりその動悸を静めながら、『落ちついて。』と冷静にドームの向こうを見つめ始めました。
ガブッと、身を引いてもう一度ガブッと、ドームに飛びかかって食いついてガジガジと頭を振ってガシガシガシと大きくガブリ!
身を震わせ、頭を振って攻撃してくる大トカゲに、私は眉をひそめて、目の前にはガラスがあるからと気持ちを落ち着かせ、その動きをざっと一頻観察してみます。
『この大トカゲって、凶暴なんだ。凄く!』私は納得しました。
この建物の中から聞こえていた声、行き違った人々の声掛けや様子、ドームを先に覗いていた女の子の反応、等。その全てがこの事態で身をもって分かりました。将に『百聞は一見に如かず』でした。
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