先に来ていた子達は鈴舞さんの同年代の子達よりは2、3歳年が上になるようでした。小さい子といっても背丈や体つきが確りしています。師匠が何か言うと、舞台で所作を習う子と、廊下でそれを座りながら見ている子との2手に分かれるました。師匠は弟子の女性に舞台の指導を任せ、廊下に降りるとテープレコーダーの前に座り、楽曲のテープをキュルキュルと巻き戻して曲を再生する為にスイッチを捻りました。鈴舞さん達新参者は、稽古中の先達からやや離れると、階段近くの板の間にちょこんと並んで正座して座りました。鈴舞さんも友達に教えられて一番左に並びました。
鈴舞さんには馴染みのない曲と歌声が始まりました。彼女と共に来た同い年の弟子の子の1人が笑顔で嬉しそうに何々だと曲名と踊りを言い当てると、おやという感じで師匠は笑顔をその子に向け、よく知っていたね等愛想などして、如何にも嬉しそうに弟子の年少の子達に笑みをこぼして見せました。
『綺麗な女の人』
鈴舞さんはこの時、師匠の顔を正面から見て思いました。並んだ子達は曲を言い当てた年少の子に顔を向ける子もいれば、無関心で知らん顔をしている子もいました。顔を向けた子は羨ましそうにその子を見やったり、または妬ましそうな表情を浮かべて覗い見たりと、それぞれがそれぞれに十人十色の風情で並んでいました。
鈴舞さんは初めてやって来た日舞の稽古場に、物珍しさと興味を持ってしげしげと眺めると言いました。
「家の柱より小さい柱だね、小さなお部屋だね。」「家より綺麗だね。」
低い天井や、細い柱、使われている樹木の光沢について屈託なく述べた彼女の感想に、連れの子達は肩をすぼめて冷っとした感じになりました。鈴舞さんのすぐ横の子はしかめっ面を彼女に向けました。ここでそんな事を言っちゃいけないのよ、そう彼女に言うと、静かに前の人の踊りを見ているのよと注意しました。
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