店内には誰もいなかったので、私は店の奥に「今日は。」と声を掛けました。思い切り2、3回大きく声を掛けなければ、誰も出てこない状態でした。当初私が感じたあからさまな商売根性とは裏腹に、全く商売っ気が無いこの店内の様子に、返って意外で面食らった感じでいました。そうこうする内にこの家のおかみさんでしょう、「はい。」と女性の方が出て来られました。 年の頃は私より10歳くらいは上の方のようでした。その方に「何かご用ですか?」「何の用です?」と真顔で言われて、私は更に驚いた覚えがあります。
その後も、店に出て来られたおかみさんは無愛想で生真面目な顔つきや態度でした。とても私を客とは思っていない様子です。この商売っ気の無さに、私は本当に意外に思い店の後ろで佇んでいました。
私はもうこの時のおかみさんとの細かなやり取りは覚えていません。唯、私が傘を買いに店に入って来た事を説明しました。奇麗な傘なので気に入って入って来た事、手持ちの金額で買えるなら買いたい事を説明しました。そこで漸く私が客なのだと気付かれたようでした。彼女は勿論笑顔になりました。私は余程お客が来ない店なのだなぁと感じました。傘の柄も最初見た時にそう感じたのですが、見た事が無い柄だけにお店同様レトロな雰囲気がありました。
「新柄ですよ。」
彼女の言葉に、私は目をぱちくりさせました。これはよく覚えています。内心苦笑して『商売屋さんの常套文句だ!』と思いました。「どれがいいですか。」と彼女に聞かれ、私は赤と桃色のどちらかが欲しいが迷っていることを告げ、お店の人と相談してみようと思っていた事を話しました。
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