怖そうに、まるで他所の知らない男性を見るような目つきで自分を見上げる孫に、祖父はこれはしまったと思いました。またやってしまったと後悔しました。それですぐに、孫に向かって少しですが顔を普段の顔に戻して見せます。その後困った顔で自分の家内に向かって言うのでした。
「困った事になった。」
と訴えます。
蛍さんの祖母は夫のこの声にすぐに反応しました。はっと正気に返ったようになると「お父さん如何したんですか?」と困り顔の夫に問いかけました。先ほどの祖父と反対です。今度は祖母が、祖父と同じ様に真剣に何かあったんですかと夫に尋ねる番になりました。
「いやね、また孫を怖がらせてしまったんだよ。」
そう訴える夫に、妻はまぁと、「お父さんは、直ぐに真剣になるから。」と言うと、「笑って笑って」と夫に自分の方を向かせたまま笑顔を作らせるのでした。が、そう器用に顔付を変えることもできない祖父です。
「お前さんの事なんで、つい真剣になってしまったんだよ。」こういう祖父に、祖母は幸せそうに微笑むと、「まぁ、ここは私が話しますよ。」と、祖父と自分の立ち位置を交換すると、泣いている蛍さんの前に立ちました。
「まあホーちゃん、よしよし。泣く事ないわよ。お前さんはよくやったよ。自分の両親の仲をうまく取り持ちしたじゃないか。」
そう祖母は優しく、猫なで声で孫に語り掛けるのでした。
蛍さんはまだ泣いていましたが、続いてあれこれと祖母の語り掛けてくれる言葉の優しさや、涙の合間に見える祖母の仏様の様に優しい笑顔に、恐怖や悲しみに小さく固まっていた心が少しずつ解れて来るのでした。
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