さてドクター・マルと弟のエンがもめた一件が有った翌日、マルとの約束の時間に、シルは自分のワークデスクに着いて彼を待っていました。しかし彼はなかなか彼女の相談室に現れませんでした。
『どうしたのかしら?。』
早速彼女はマルの居所を探ってみます。すると彼は如何やら未だこちらへ向けての通路を移動中のようです。彼女が落ち着いて待っていると、漸くドアの前でるるる…、と来客を告げる合図の音が鳴り、この部屋のルームライトがグリーンの色に変わり点滅しました。
「どうぞ。」
彼女が声を掛けると、やぁ、待たせたねと、ドクター・マルが申し訳なさそうな顔付で部屋に入って来ました。
どうやらドクターはここに来る前に、エンと彼の子供達の話をしていたようです。
「弟と、なかなか話が合わなくてね。」
「詳しく話さなくても、君の事だ、こちらの事情は大体分かっているのだろう。」
そうドクターは苦笑いして彼女に言いました。しかしシルは微笑むと、
「余計な事はなるべく読まない様にしているんです。」
ご本人から直接お話を伺いますから。と言うと、シルは先ずマルに、自分のデスクの前に据えられている座り心地の良いソファーへと、彼が腰を下ろすよう勧めました。
さて、シルがマルに彼の弟との事を尋ねると、マルは弟の子供達の件で彼ともめてしまったのだと告白しました。
「半分はエンの子だと思っても、半分はウー、エンの奥さんの名前なんだが、彼女の子だ、そう思うと全く引き取る気になれ無くてね。」
無くてね…。気の毒だとは思うんだが。と、マルは暗い表情で視線を床に落としました。マルはエンの奥さんとの過去の確執を忘れる事が出来ない様子です。
「好きな物は好きなんだが、私は、嫌いな物は嫌いでね、好きになれないんだよ。」
と、最近知り合った地球人男性と同じような事を口にしました。
彼はその地球人の初老の男性の寂しそうな笑顔を思い浮かべると、次にはその男性を紹介したこの宇宙船のクルー、士官候補生のミルの顔を思い浮かべました。
ひょんな事から彼と知り合う事になったが…、ミルのお陰でね。とマルは思いました。『彼とは話をしてみると、案外馬の合う相手であった。』と、マルは非常に嬉しく感じるのでした。地球人とね、異星人同士なのに、故郷の星では気の合う合相手がいなかったこの私なのに。「不思議な物だなぁ。」と彼は溜息を吐きました。
そんな彼に、おやっとシルは一瞬腑に落ちない顔をしてドクターを見詰めました。が、そんな彼女の様子に気付かないドクターに、彼女は自分の顔をドクターと目が合う前にと、普段の涼し気な表情へと戻しました。
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