Jun日記(さと さとみの世界)

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マルのじれんま 40

2020-06-04 16:49:03 | 日記
 「おや、これは、」脱衣室に入った紫苑さんは呟きました。浴室から入ってみるとこの部屋には新しい発見が有りました。何と、廊下からの入り口がある壁の隅の上部に、張り出し棚が有り、その上に小さなテレビが乗っかっているのです。

 あら、これはまぁ、銭湯の脱衣場の様にと紫苑さんは思いました。試しに天井を見上げてみると、有りました。やはり大きなプロペラがその中央に設置されています。無論銭湯程に天井が高い訳が無いのですが、一般の家にと思うと、それは吹き抜けくらいの感覚の作りになっているのでしょう。窓の外には坪庭など設えてある様子です。その庭に続くガラス戸に寄って向こう側を覗いてみると、窓の向こうは縁側のようです。小作りな木製の廊下が続いています。廊下の端はというと、行き止まりの白壁です。廊下の横手にドアが有りそこには半坪程の個室が有ります。『厠だな。』紫苑さんは思いました。

 昔紫苑さんの近所にあった銭湯が、やはりこんな風に脱衣場の傍に坪庭を造り、そこにトイレを設置していたのです。ふうむと紫苑さんは唸りました。これはまた、円萬さんの家はなかなか趣向を凝らした家のようだ。風流なんだなと感嘆しました。

「なかなか楽しめそうなお家だな。」

紫苑さんは朗らかな笑顔になりました。
 
 さてと、紫苑さんは室内へと振り返りました。着替えが用意してあるという事でしたから、それを確認して早めに身に着けて仕舞おうと思ったのです。未だ湯上りで暑い最中、下着だけでも身に着けておこうかと考えながら棚、棚と、彼は先程自分の衣服を脱いだ棚の辺りに目を遣りました。

 あら、あれは…?。紫苑さんは横壁に設置された白いボックスに気付きました。上部にガラスがはまっています。ガラスは引き違い扉になっている様子です。手拭いを腰に巻いて、彼はそのガラスの戸が付いたボックスの傍に寄るとどれと中を覗き込んで見ました。果たして、ボックスの中にはガラス製の小瓶が並んでいました。白、黄色、茶色、飴色と4色ほどあり、彼がそうと合点してボックスの横手を覗いてよくよく見ると、そこには紐がぶら下がり、紐の先にはぷらっすチック性の小さな細長い棒の様な物が付いています。棒の先は中身のくりぬかれた円状で、円の中には先の細く尖った金属の目打が付いていました。

 「なるほど、栓抜きね。」

芸が細かいなぁと紫苑さんは目を細めて笑ってしまいました。ボックスは乳飲料用の冷蔵庫であり、脇にぶら下がっているプラスチックは、ボックスの中の飲料瓶の上部で蓋をしている、紙蓋で出来た栓を抜く栓抜きというセットです。銭湯の脱衣場ではお馴染みの小道具セットでした。

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