Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(162)

2018-08-20 10:27:27 | 日記

 それでも蛍さんは、何かしらの答えを求めて木戸をじーっと見詰めてみました。そうする内に彼女にはあの木の戸の裏側には何か目に見えない物、土筆以外に隠された秘密が有るような気がしてくるのでした。

 「おいおい、ホーちゃんの番だぞ。」

気付くと蜻蛉君が蛍さんのすぐ傍まで来て声を掛けていました。蛍さんは蜻蛉君に涙を見られたく無くて、彼から顔を背けると、そっぽを向いてぷん!と、怒ったふりをしました。そして盛んに目を瞬いて涙を乾かそうとしました。

「私したくない。放っておいて、もう蜻蛉君となんか遊びたくない。…」

そんな事を怒った口調で盛んにまくし立てて、蛍さんは自分の所から彼を遠ざけようとしました。

「仕様が無いな。」

彼は蛍さんの思惑通り、「ホーちゃん1回抜かしだ。」、そう茜さんに声掛けして元の場所へ戻って行きました。

 蛍さんは蜻蛉君達の隙をついて手で涙をさっと拭うと、もうこれで大丈夫かなと思いました。

『誰も私が泣いていた事には気付かないだろう。』

そう思うと彼女はほっとしました。もうこれで落ち着いた、涙は出てこないと彼女は思いました。しかし、如何いう訳かまた程無く彼女の目にはほろほろと涙が溢れ出て来るのでした。蛍さんはこれには驚き困ってしまいました。自分ではどうにもならない涙なのです。


土筆(161)

2018-08-20 09:46:38 | 日記

 そう気持ちを決めると、蛍さんの気持ちはさっぱりと切り替わりました。信用できない人の為に自分が悲しんでいるなんて、何て自分は馬鹿なんだろう。あんな人を今迄仲良しだと思っていたなんて、自分は本当になんて馬鹿だったのだ。

『馬鹿は人から嫌われる、そんな馬鹿でいいのか!』

彼女は何時もの父の言葉を胸に思い起こしました。そしてキッ!と気持ちを引き立てるのでした。私は馬鹿じゃないんだから、『嫌な人に負けないわ!』と。

 しかしここで、蜻蛉君の言う事がもし嘘なら、何故彼女の従兄の曙さんも、彼女を態々蜻蛉君が教えたと同じ場所に連れて行き、彼と同じようにここに土筆があると教えたのでしょうか?

 また、何故蜻蛉君はその場所を彼女に見せて、その場所が土筆の生える場所である事を彼女に教えようとしたのでしょうか?

 この時の蛍さんにはこれは答えの出ない疑問でした。疑問どころか、彼女は曙さんの教えた場所と蜻蛉君の教えた場所が同一の場所だという事にまだ気付いてさえいないのでした。それでも彼女は、蜻蛉君の言う事は信頼できないと決めてかかった時に、何となく蟠りの様な引っ掛かりが胸の内に起こった事を感じました。そこで蛍さんはその胸の内に湧いた何かについて不思議に思い、それが何だろうかと木戸を見詰めて探ろうとしました。が、その時点の彼女にはそれは無理な相談というものでした。

 このお寺で何度か遊んだ事のある彼女でしたが、本堂の裏手へ行く道順は最初に教えられた通りでした。その道順は何時も一方通行でした。帰りもその一方通行の道を戻るのです。つまり、今目にしている木の塀の向こう側へ行く時は、彼女は今いる場所とは反対方向、本堂の向かって左側方向からしか行った事が無かったのです。この時の彼女は、本堂を向かって左側方向からぐるりと回って行くと、今目にしている木戸の裏側、つまり本堂に向かって右側に来るのだという事を、全く把握してい無かったのでした。

 


好みが有るんですが…

2018-08-20 09:32:15 | 日記

 普通に素麺鉢(1人分用)に素麺と汁を入れて、薬味のネギ等も加え、出来上がったところへ生のトマトのさいの目切りを散らします。好みですがトマト1個の2分の1~4分の1程度加えます。トマトの酸味と麺つゆがマッチして麺が美味しく食べられます。と、私は思うのですが、好みじゃない人も確かにいるので、100パーセントのお勧めは出来ないですね。

 ゆで上がった素麺を冷水で冷やした後、水を切ってポリ袋に入れ冷蔵庫で冷やし、冷蔵庫で冷えた麺つゆで普通に食べると冷たくて美味しいです。簡単に七味唐辛子だけ加えて食べても美味しいです。ごく普通ですみません。

 家では普通、素麺以外の副食材でアレンジしています。かき揚げを付けるとか、おしんこを添えるとかです。素麺は素麺として案外普通に食べています。


土筆(160)

2018-08-19 11:09:54 | 日記

 彼女は視界が利く様になると、そのまだ涙の溜まった瞳に映る、眼前に長く横へと伸びて続いて行く木の塀に気付きました。塀の左右を見渡すと、その左端には小さな片開きの戸がありました。

『あの向こうに、』

彼女は思いました。『あの向こうには、きっと土筆なんか無いんだわ。』。

 それは今年の春の初めの事でした。未だ早春のある日の朝、蜻蛉君は蛍さんを誘い、この木戸の向こうへ連れて来ると言ったのです。ここに土筆があるんだ、と。その時、その場所には全く土筆は生えていなくて、むき出しの黒っぽい茶色い土があるだけでした。彼女がそれ迄にこのお寺の敷地内で見た土筆は、5月頃のカサカサした土筆だけでした。その場所も本堂の裏手の軒下、雨が落ちるような場所で、土筆達は建物に沿って長く帯のような感じで生えていたものです。

 その時蜻蛉君の示した場所は、いま彼女の涙で潤んだ目の前の塀の向こう、木戸を潜った向こう側でした。その時もなぜ彼が自分をそこへ連れて来てそんな事を言うのかと彼女は不思議に思った物でした。

 そしてその後、その場所は、地域の子供達がこの寺に沢山集まった日、茜さんの兄で彼女の従兄の曙さんからも、この場所に土筆がある、今は無いけどここには土筆が生えるんだと、その場に彼女は連れて来られて教えられた場所でした。

 『多分、あの場所には土筆は無いんだわ、』

蜻蛉君の言っていた事は当てにならない、信用出来ない事なのだ。自分の事を信用しない蜻蛉君だもの、『私も彼を信用しないでおこう!』蛍さんは自身の心の内にこう固く誓うのでした。


土筆(159)

2018-08-18 11:18:05 | 日記

 実はこの時までに、『商売には信用が大事。』という、そんな言葉が蛍さんの胸の内には既にあったのでした。商売屋の祖父や父の話す言葉から、彼等の傍で幼い頃から話を聞き習う内に、彼女は信用という物についてとても大きな概念を持っていたのでした。

 『ホーちゃんは、何時もの遊び仲間の蜻蛉君に信用が無かったんだ。』

そう思うとしみじみとした寂寥感、絶望感の様な暗い影が彼女を捉えました。その彼女の全身を包み込んだ流砂の様な暗い影は、涙と共に彼女の胸の奥底からも湧き上がって来るのでした。それは彼女にとって生まれて初めて感じた挫折感でした。彼女は身に覚えのない事で疑われ、誤解されたという悲憤に駆られ、茜さんや蜻蛉君に背を向けると彼等から離れ、境内の奥の長い塀へと向かい、1歩、2歩と歩き始めました。そして彼女は塀まで行き着く事が出来ずに直ぐに立ち止まりました。この時彼女は絶望感で涙ぐんでいました。溢れる涙で視界が曇って、それ以上全く歩く事が出来なかったのです。

 そんな蛍さんから少し離れた場所で、茜さんと蜻蛉君の彼等2人は、さも仲良く楽しそうに声高に話声を上げました。彼等はいかにも石投げ遊びに興じている風情です。その声が蛍さんの耳に入らない訳がありませんでした。彼女は少し落ち着いてくると、耳に入って来るこの蜻蛉君のはしゃぐ声が、どうにも、如何にもという感じで態とらしく響くのでした。

『何だか…』

彼女は思いました。そう、自分に対してあからさまに当て付けがましいと感じたのです。彼の態度が自分に対して如何にも悪意があり、大変嫌味な態度に思えて来ました。蛍さんは蜻蛉君の事を大変嫌な子だと思うと、何だか今までの絶望感が和らいで来ました。目に溢れて来る涙も止まった様でした。

『あんな嫌な子、信用されなくたって、私構わないわ!』

彼女は唇を噛みしめました。