マルの医術の腕は確かな物でしたから、バツ艦長は九死に一生を得て奇跡的に回復したのです。彼の率いる宇宙船の全乗組員にすると皆艦長の復帰を諦めていただけに、この艦長の病の好転をマルに感謝感激を以て返したのでした。これ以降マルは思わぬ抜擢を受けました。バツ艦長率いる宇宙船の医療スタッフとして皆に大歓迎されて迎え入れられると、艦長の骨折りで元の宇宙艦隊の一員に無事復帰できたのでした。
「また艦隊に戻って来れるとはなぁ。」
医療室のドクターの正式な制服をパリッと身に着けて、再び勤務船の医療室に立ったドクター・マルは、船の窓外に映る漆黒の闇を見詰めると、時折り煌く星々を彼の目に映しては感慨無量の思いに浸るのでした。
『そんな事もあったな、もう遠い昔のように思うが…。』。ドクター・マルは過去の思い出を振り返りながら、また元妻スーの事を考え出していました。
私にはもっと彼女にしてやれる事があったかも知れない。彼は後悔していました。スーとの別れの時、彼女の虚な表情を思い出していました。寂しげで悲しそうな、不安を含んだ彼女の無機質な瞳。そんな痛々しいスーを彼女の親元に1人残して来たのだなぁ。彼は今深い自責の念に駆られるのでした。
「どうしました?。」、紫苑さんがマルの様子に気付き声を掛けました。気付くとマルの頬が濡れていました。マルは思わず濡れた物に気付いて頬に手をやり、拭うと、いやぁと返事をしました。
「ちょっと思い出しましてね。」
マルは照れて微笑みました。
「私にも人生色々ありましてね、あなたの思い出に自分の思い出が重なりました。」
「一寸感涙しまして。」
と言葉少なに結ぶのでした。