Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華3 158

2021-05-17 16:13:20 | 日記
 早々と、店内では男性のテーブルを囲んで、彼や彼の嫁とその孫は、テーブルの上の大皿に盛られたモダンな西洋料理に彼等の熱い視線を注ぎ、嬉々としてその手を拱いていた。食堂の厨房ではしゅんしゅんと丸薬缶が湯の沸いた音を立てている。長女は小さく紅茶と声に出し、厨房に期待を込めた視線を遠慮がちにちらりと送ると、はにかんだ様子でその瞳を輝かせていた。唯、この時、店主の用意していたのはコーヒーであったので、彼は子供の客の事を内心気の毒に思うと、黙った儘で臍を噛む表情を浮かべているのみだった。

 母娘は食堂を出て歩き出した。あんなサンドイッチもあるのね。そんな事を姉妹は話し合っている。パテ等挟んだ如何にも本場仕込みのサンドイッチは、残念な事に子供の口には合わなかったのだ。でもと、ジャムやチョコレート等、甘味な物も有り、そこは子供の事、物珍しいとはしゃぐと喜んでいた。「ハムサンドが欲しかったわ。」ねぇと、少々不満げに姉妹が溢すと、食べ物に対して不足はいけませんと、先に立って歩いていた彼女達の母が振り返って姉妹を嗜めた。

「普段の日に、あんなご馳走。口に入る物を食べられるだけでもあなた達は幸福な時代にいるのに。あんな贅沢な物に出会えて不足を言うなんて…。」

贅沢極まりない。そう言う母を姉妹が見上げると、彼女は意外な程にきつい表情をしていた。姉妹は驚いた様に口を閉じ、徐に2人顔を伏せた。

 暫く姉妹は口を閉じた儘黙々と歩いて行く。すると直に彼女達の祖父の家、その裏手に通じる小道の入り口に差し掛かった。

 「如何かしら?、もう来てると思う?。」

母が姉妹に向けて尋ねた。ああ、ええと、彼女達は母の叱責と食堂でのご馳走の夢未だ醒めやらぬ体でいた。お陰で碌に返事も出来ない2人だった。如何?、再度母に尋ねられ、姉妹の姉が渋々答えた。

「行ってみたら、分かるんじゃないの。」

取り敢えずそれしかないでしょうと、ムッツリとした口調で彼女が答えると、彼女の母もまぁと不満気な顔付きを彼女に向けた。

「サンドイッチの事を未だ怒っているの?、そうなのね。」

2人共そうなのねと、彼女達の母は子等の不足をははぁん判じると、改めて食堂のサンドイッチの本場の仕様を解くのだった。

「あなた達の歳で、あの味を味わえるなんて、」

妹は勿論、姉でさえ、この国のこんな地方で暮らしていながらも、しかも偶然にその味、あんな見事な盛り付けに出会えたのだ。その、時の幸運をお前達は喜ぶべきだ、と母は諭すのだった。

 「はい、幸福ね。」

姉は母に応じた。未だ彼女は少々仏頂面だったが、「私達は極めて幸運です。」、そう姉は母に向かってキッパリと告げる事が出来た。母の言葉に納得したという事を、彼女は確りと自分の母に伝えたのだ。しかし妹の方はだんまりを決め込む様子だった。そんな末の子に、母は少々きつい顔を向けた。が、踏み込んだ通路の先の様子が気になっていた彼女は、溜息と共に直ぐに自身の身を返すと、スタスタと通路の奥へと足を踏み入れて行った。

 残された姉妹の姉が妹に言った。

「もう、何でもいいから、」

こう言う時はお母さんに合わせて。何でもはいはいと言っておけばいいのよ。と小声で彼女に囁いた。そうすれば事は万事丸く収まるのだと。そうして姉も急ぎ母を追い掛け通路へと自分の足を踏み込んだ。妹の方は通路の前で、未だ不満気に幸福幸福と小さく呟いていたが、やがて諦めた様に姉の後を追って走り出した。

今日の思い出を振り返ってみる

2021-05-17 09:44:25 | 日記

マルのじれんま 29

 「遊び?。」「魚釣りは遊びなんですか?、これはまた何とあなたは剛毅な人ですね。」ツンと、一瞬紫苑さんの目の先が尖りました。何しろ彼にとって釣りの目的はほぼ食べる為であり、食料を得......

    今日は雨。この様子ではこちらも梅雨入りするのでしょうか。
    高齢者の、ワクチン接種が取り沙汰される候。地方ではそうです。私も母の事が気になります。私自身は未だ未だ先なのでそれでどうという変化も無いのですが、今後の生活の方には、何か変化が出て来るのでしょうか。

今日の思い出を振り返ってみる

2021-05-16 11:05:57 | 日記

マルのじれんま 28

 ああ、マルは答えました。いえ、一寸…、風邪気が有るのでしょう。「ここが木陰で涼しいので、急に冷えを感じたようです。」背筋にぞくっと来まして。マルはそんな事を口にして無理に笑いまし......

    今日は曇り。雨の予報ですが、未だ空は持っています。
    実はこれは、昨日の思い出になります。今日のが未だ来ないので、載せました。

うの華3 157

2021-05-15 11:25:54 | 日記
 あら、まぁ。嫁が舅の示す料理の意外さに、はっとばかりに驚いた。その顔の下から「あ、お祖父ちゃん、元気?。」等、二言三言言葉を掛けて、彼女の長女も遠慮がちにその顔を見せた。そうしてその2人の顔の隙間を貫く様に、母姉2人からやや離れた後方に立って、次女が小さく顔を見せると、自分の場所から遥か遠くの店内へと目を向けた。

 好奇心に駆られる様に、次女は食堂内をチロチロと覗き込んでいた。と、彼女の目がはっと見開かれた。彼女は何かに気付いたのだ。そうでしょうと、彼女は自分の母に耳打ちした。そこで母も彼女の方へ顔を向けて何やら話し始めたが、その内、未だそれと気付か無いで祖父の顔付きばかりを窺う姉娘に、その肩を彼女の母が合図する様に軽く小突いた。彼女が母へと振り向くと、それは店内に入ろうという母からの合図なのだ彼女は解した。彼等の様子に気付いた彼女の祖父も、透かさず店内から彼女達に手招きしてみせた。

 母娘はぞろぞろと、長女を先頭にするとさも遠慮がちに食堂内に入って行った。彼女等の先に立ち歩む姉娘は1人合点が行かず、気の乗らぬ冴え無い顔を見せていた。彼女は先程の祖父の頓狂な声音が気になっていた。この時、彼女には父方の叔父、四郎の奇妙な言動の事が頭に上っていた。

『遺伝か、祖父は叔父さんの父親だものね…。』

もしかしたら祖父も、と彼女は自分の祖父の異常を危ぶんでいた。

 それに対して、彼女の後ろから続く母と妹の瞳や顔は、これからご相伴にあずかる者に特有の、幸福で恭しい控えめな歓喜の光を湛えていた。食堂のテーブルに置かれていた食事、彼女達にとって思い掛けないそのご馳走に、2人はとうに気付いていたからだった。

「如何したの、お祖父ちゃん。」

早くもテーブルの前に立った次女が可愛いらしく声を上げた。「このサンドイッチ!。」

 えっと、姉は驚きハッとした。祖父の顔ばかりを見詰め、何時しか立ち止まると母は勿論妹にも抜かされ、彼女は未だ祖父の待つテーブル端にも達してもいなかったのだ。彼女は急ぎテーブルに辿り着くと、そこに妹の言葉の示す物を見出そうと目を凝らした。 

 しかし悲しいかな、祖父の顔ばかりを長く凝視していた彼女の瞳は、容易にテーブル上の物に焦点を合わせる事が出来無かった。彼女は暫しサンドイッチらしい物にさえ彼女の視線を合わせられずにいたが、ぼんやりと白い場所、ここと視点を定めると彼女は目を凝らし、一心に自分の目の焦点を合わせた。すると彼女の目にも山と積まれた白いパンの積み木の様な塊、四角い断面や三角のとんがり帽子の面々が確りと大きく目に映って来た。これがサンドイッチ?、未だ判然としない思考の中、彼女は妹の言葉をぼんやりと呟いた。

 「サンドイッチ!。」

漸く事の全てを理解した彼女は、驚いた様に大きな声でこの言葉を発した。「どうしたの?、お祖父ちゃん、これ。」こ、この、「こんなに沢山!、サンドイッチの山、山…、」彼女は驚きの余り絶句すると目を白黒した。そんな孫娘に、私の昼食、お昼だよ。彼女の祖父は微笑んで事も無げに言うと、皆も一緒に如何だいと、彼の嫁や孫達をお相伴へと誘った。

今日の思い出を振り返ってみる

2021-05-15 11:17:24 | 日記

マルのじれんま 27

 魚釣りが殺生?。マルは心の内で呟きました。そしてすぐにぴん!と来るものが有り、笑い顔を自分に向ける紫苑さんに問い掛けました。「釣った魚を殺すんですか?。」この世界の魚釣りはそうな......

 今日は良いお天気です。窓を開けようと思ったのですが、この時期は毎年近所の何処かしらで、トントンカンカン工事の音がするので、開けた窓を閉めてしまいました。花粉や黄砂も収まって来たと思ったのに。
 明日からは、もう雨混じりの天気予報です。今年の梅雨入りは早いとか、そんな年は梅雨明けが遅い傾向なのだとか。しっとりと、じわじわした気候が続く今年なんでしょうか。湿気はコロナには如何影響するのかしら、気になります。