「えっ!」
「ええっ!!」
2人同時に大きく目を見開いた。彼等が揃って驚愕の声を上げた様は、流石に鴛鴦夫婦の体であった。
玄関に立つ子供にすると、その夫婦の驚きの仕方といったらなかった。彼等は正に絵に描いたような仰天の仕方をしたのだ。彼等は揃って腰を引いた、というか、上半身を折る様な形で前に身を乗り出した。こちらに飛び出す様にして見開かれた眼。その眼の大きい事、丸い事といったら、如何にもその頃の4コマ漫画にでも出て来そうな驚きの構図だった。子供の目にも正にそれその物に映った。
そんな彼等の仕草に対比を見せて、冷静沈着、全く動き無く玄関で夫婦を見守っていた子供だったが、内心にふっと湧き上がって来る可笑し味を覚えていた。目の前の階段という舞台で繰り広げられた、遊び友達の親が演じた夫婦漫才、子供にはそんな漫談の一場面を見る様な心地がしていたのだ。
子供の内面の愉快感は否応なしに増して来る。と、くっ、ふふふと、その口元から抑え難い忍び笑いが洩れた。するともう我慢できなかったのだろう、ハハハハハ…と子は身を捩ってこの家の玄関に明るい高笑いを響かせた。
階段の夫婦はそんな子供の様子をキョトンとして見ていた。如何したというのだろう、急に笑い出して、やはりおかしいんじゃ無いか、と互いに囁き合う。一寸聴いてみようよと彼等の相談が纏まると、夫が先ず口火を切った。
「智ちゃんと家の子、清は、仲良く無いよね?。」
目の前の子はいいやと首を横に振り、不思議そうな目をして彼の目を見詰めると、彼の言葉を否定した。「仲良しだよ。」。
「でも、でも、友達じゃ無かっただろう。君達…は。」
主人の声は話の尾に近付くに連れ上っ調子になり、か細くなり、遂にはふっと途切れた。