空気を震わせる、妻の凛としたこの声を聞いた夫は眉を顰めた。彼は彼女を労う様に、「縁起でも無い。」と呟くと、あの子は何だってこんな時間にこの家へやって来たんだ。と、迷惑そうに呟いた。実際に、迷惑な、拠りにも拠って、家だなんて、と、口にした。
『しんみりとした雰囲気は変わらないなぁ。』私は思った。折角おじさん達が話し始めたのに、その後は相変わらずの沈黙の時が訪れていたのだ。私はこの彼の家の店先の重い雰囲気に焦ったくなって来た。もう帰ろう、否、清ちゃんを誘わずに1人で遊びに行ってしまおう。私は決意した。と、天井でバタバタと動きのある音がした。2階に近い位置にいたおじさんが何だと驚いた声を出した。如何したんだ、何かあったのかと上に声を掛けた。2階から返事は無い。様子を見て来ると妻に言うと、おじさんは階段から2階へと消えた。
おい、何をしているんだ。そんなおじさんの声と何やら別に話をする声がしていたが、程無くしておじさんは階段の妻の元に戻って来た。
「あいつ、頼まれているそうだ。」
そんな事を、彼は自分の妻に伝える様に話していたが、頼まれるって、こっちは嫌だよと妻。彼女があの子に断れって言ってくれと言うと、夫は言ったよと答えた。えっと思わず顔を顰める妻。
ボソボソと、2人は相談していたが、その内思い立ったように夫の方が玄関にいる子供に声を掛けた。
「智ちゃん、別に家の子と遊ばなくていいだろう。」
智ちゃんには遊ぶ子他にいるしな。あの子だって、他に友達いるし…。そう作り笑いを浮かべて、言葉を切ると、彼は子供の様子を見るために黙った。玄関の子は首を傾げてキョトンとしている。彼の言葉が判然としない様子だ。彼はなぁと、子供に同意を求める様に声を掛けた。そうして、子供が確かに他にも遊ぶ子はいると答えて来たので、彼はここぞとばかりに満面の笑みを浮かべると言った。
「それに、智ちゃん、あんた家の清は嫌いだろう。」
無理して遊んでくれな…。彼がそこまで言ったところで、玄関の子は彼の言葉を遮ると、その言葉をキッパリと否定した。
「ううん、清ちゃんとは仲良しだよ。」