Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華4 6

2021-11-10 10:19:20 | 日記

 ミシリミシリと、おじさんは妙に視点を何処かに据えて、強面の顔のみ私に向けながら階段を降りて来た。私の方はその顔が清ちゃんの父親の顔と分かると、にっこりとして彼に挨拶の声を掛けた。しかし私の声掛けにおじさんは特に表情を変えなかった。そうして無言でゆっくりと自分の顔を妻の方へと向けた。そうやって私の視線からようようと自分の顔を外した。

 彼はおずおずと、向かい合った彼の妻の肩に自分の片手を掛けた。そうして案じる様な調子で、大丈夫なのかと、溜息混じり、密やかな言葉を彼女に掛けた。そんな夫に妻の方は顔も上げず、静かに彼より下の階段に佇んだ儘だった。

 俯いた儘で、彼女は自分の横に立つ夫に心持ち身を寄せたように見えた。伏し目がちの妻、そんな眼下の彼女を彼女の横方向から見下ろす夫。階段に佇む2人の周りには、急にしんみりとした空気が漂い始めた。私は目の前のそんな2人の空気を感じ取った。階段の沈んだ様子に、私はしめやかな野辺の送りの気配を感じるのだった。

 この家の親戚に不幸があったのだろうか。私は突如として悟った。そうか、それで店を休んで出かける準備をしていたのだ。透かさず私はこの家の親戚に不幸があったのかと問い掛けてみた。無言で沈み込む彼等から返事はなかった。

 階段の2人は、相変わらず2人だけの世界に浸っているようだ。この夫婦は仲が良かった。大体私の家のご近所は皆夫婦仲が良かったが、この若夫婦も御多分に洩れず鴛鴦夫婦だった。ふっと、おばさんの方は片手の甲で目を拭った。涙。やはり涙だ。おばさんは泣いている。私は確りとその事実を目にした。すると、ちらりとこの時おじさんがこちらを見た。おじさんの目も赤く縁取られている。本当に仲が良いなぁと、私はしみじみと胸に感ずる物が湧いた。

 「葬式に出るの?。」

私は目の前の夫婦に尋ねた。やはり2人は無言でひっそりとしていた。何方も返事をしてこない。私はこの変化の無い空間、玄関であり店先で有る場所で、止まった儘動かないでいる情景という物に苛立ち始めた。思わず顔を顰めて帰ろうかと考えた。そこでこの家を出る頃合いを伺っていると、「葬式?。」と、不意におじさんの方が口にした。

 彼はもう1度、葬式?、だって?。と、半信半疑の体になった。清ちゃんの父、おじさんは今そう言ったのかいと、彼の面を改めて私に向けると聞き返して来た。私がそんな彼に目をパチクリさせながら頷くと、彼は怪訝そうにじいっと私を見詰めた。

 はて?、町内にそんな所が。と、彼は呟くと、眼下の妻に顔を戻し、昨日訃報の回覧があったかと尋ねた。さあ、妻は言葉に詰まった。この時彼女は声に出すとその声が震え声になってしまいそうだった。加えてううと嗚咽が漏れそうになるのだ。そこで彼女の方は2、3回、ごくん、ごくんと、唾を飲み込むと、咳上げて来る物をぐうっと下げた。そしてきっ、と、彼女は空元気を振り絞ると威勢よく答えた。「来てないよ。」「そんなもん。」 


うの華4 5

2021-11-09 10:31:55 | 日記

 おばさん、泥棒?…。私は小声で清ちゃんの母親に問い掛けた。そうなのだろうか?。2階には暗躍中の泥棒が?。私はこの家がとんだ取り込みの最中、危難にあっている時に折悪しく来合せたのだろうか。否、『折良くだ!』、私は思い直した。

 「おばさん、泥棒が入っているんだね。」、私は緊張に頬を紅潮させ、2階には聞こえない様、階段に踏み留まっている清ちゃんの母親に小声で囁き掛けた。するとおばさんの顔にも緊張が走った。私が見守る中おばさんの顔には影が差した。やはりそうなのだ、この家は緊急に迫られているのだ!。私は思った。緊急に迫られているこの家を、私の友達の清ちゃん一家を、折良く居合わせている私が救ってあげなければ。私は如何したら良いだろうかと考えを巡らせ始めた。その時2階の階段の降り口から声がした。

 「やっぱりおかしいんだろう。」

そう頭上から階段のおばさんに掛けられた声。その声の主はおばさんの緊張した雰囲気を感じ取った誰かの物だろうか、私は思った。そうしてその声はおじさん、清ちゃんの父の声にも似ている、と、この時の私は感じた。普通の調子に聞こえるその声が、もし私の感じた通りおじさんの物ならば、やはり2階には清ちゃんの家族だけしかいないのだろうか。私の取り越し苦労なのだろうか。こう私は思った。

 「大丈夫なの?。」、私はおばさんに声を掛けてみる。おばさんも、そんな彼女の様子を窺う私に向けてコクリと頷き、眩い瞳の微笑を返して来た。

 そこで私は少しほっとした。思わずふうっと詰めていた息を漏らすと、ポカンと口を開けて自分の頭上の天井を見上げた。頭上では誰か動き回っているのだろう。時折みしり、みしりと、控えめな音と振動が伝わって来る。

 「おい、大丈夫なのか。」

自分の声掛けに返事の無い清ちゃんの母に、苛立つ様に声が掛かった。それはハッキリと私にも分かる声だった。清ちゃんの父親の声だ。私は天井から階段に目を移した。そんな私が見守る中、階段にはその声の主がのっそりと姿を表した。それはやはり私の感じ取った通り、この家の主人で有る清ちゃんの父親だった。


うの華4 4

2021-11-08 20:21:18 | 日記

 仕事って、と、おばさんは不服そうな顔付きで少々口を尖らせ物言いをした。

「こちとらは、はぁ、ご飯も未だだっていうのに…。」

ご飯?、ああ、昼ごはんか。私は思った。続けて、『随分遅い昼ご飯だなぁ。』私は思った。私など昼食の後の昼寝まで終えて、その後にここ迄来ているというのに。やや呆れた目付きでおばさんを見上げると、おばさんは如何いう物か怒った顔を見せずに、今までの緊張がほぐれた様にふうと肩を落とすと、如何にもほっと安らいだ様子で優しい笑顔を私に向けた。

 何時もの智ちゃんだね。自分に言い聞かせる様にそんな事をしんみりと言うと、この家の2階に向かって、何時もの智ちゃんだよ、治った様だよ、等言った。2階では、一瞬ええっと驚きの声が上がったが、直ぐにシイっとそれを抑えるような声と気配が伝わって来た。如何するんだ、如何って、等、その後も頭上では話は続いている様だったが、私のいる1階の玄関先迄は話の内容は伝わって来なかった。

 何だろうか。私は2階にいるのが誰と、判然としない状態でいた。この家の2階なら、いるのは清ちゃんと、ここにいない彼の父の筈だ。が、如何も何時も聞いていた彼等の声音とは違っている様に感じる。そこで私は口を閉じて頭上に耳を澄ませてみた。そんな私の様子に清ちゃんの母も口を閉じて黙っていた。

 この様にシーンとしていた階下だったが、頭上から聞こえて来る声の気配はやはり私には馴染みの無い声の様に思える。そこでこの家の2階に今いる人物達は、この家に普段いる住人とは違う誰か別の人物らしい、と、私にはそんな風に思えて来るのだった。そうしてその人物達が、何かしら忙しなく焦って動き回っている。そんな頭上の喧騒の様子ばかりが伝わって来るのを、私は階下で不穏に感じ始めた。


うの華4 3

2021-11-08 19:54:56 | 日記

 この間やや間があったが、遂に階段の女性はおずおずと私に顔を見せた。それは果たして清ちゃんの母、彼女の顔に相違なかった。彼女の顔は何だか緊張気味で、私に対して何時もの様に愛想の良い笑顔を見せていなかった。が、その瞳はじいっと私の顔を覗き込み、その内優しい視線を私の顔に注いで来た。

 「今日は、おばさん。」

私はいつもの様に笑顔で午後の挨拶をした。昼寝から覚めた後の外遊びには、何時もこの午後の挨拶が欠かせないのだ。と、私は理解していたので、いかにもしたり顔で悠然と微笑んだ。そんな私に彼女も目を細くして微笑んだ。何時もの智ちゃんだね、彼女はホッとした様に声を出した。「病気はもういいの?。」

 おやっ?と私は思った。暫く風邪は引いていない、な。と思った。私が風邪を引くのは冬だ。もう夏も近いというのに、何だろうと思った。この頃の私が病気と聞いて思いつく病は風邪のみだった。腹痛や頭痛等、病気と思っていなかったし、実際、この頃の私は腹痛も頭痛も滅多に起こさなかった。清ちゃんのおばさんは如何したのだろう?。今日のおばさんは何だか妙だと感じて、私は目をパチクリとした。

 妙だといえば、清ちゃんの家のお店に、何時もいるおじさんがいないのも妙だ。午後は何時もこの時間は、清ちゃんの父で有るおじさんが店先にいた。彼はせっせと稼業に勤しんでいるのが常であったのだ。こんなふうに店先がシンとして、如何にもひんやりとした雰囲気で有るのは、私はこの時が初めての様な気がした。

「おじさんは?。」

私は階段を見上げて、清ちゃんの母で有るおばさんに尋ねた。「おじさん、仕事してないの?。」


今日の思い出を振り返ってみる

2021-11-08 19:41:22 | 日記
 
卯の花3 68

 「お祖父ちゃんは…、長く生きて来て、…商売も上手いし…。」如何いったらよいのだろうか、私は未だ自分の言いたい事がよく分からず悩んでいた。 「お金だって沢山儲けたんでしょう。」思わ......
 

    よいお天気でした。明日は雨になるようです。寒くなるかしら。

    相変わらず、誤字の題名が続く昨年の作品。昨年は、パソコンが前回の文字を記憶して変換候補が表示されていたので、それをクリックしただけでしたが、こんなに漢字が続いているなんて、と、妙に感じます。何時もひらがなを見て、クリックしていましたからね。